時間を追うごとに改善された乾との関係性
畠中の最大の武器として、ビルドアップの中で相手のプレッシャーをものともせず、前線まで一気に展開できるパス能力の高さが挙げられる。森保ジャパンは基本的にGKやセンターバックから中盤を経由して2列目のアタッカー陣に自由に仕掛けさせる戦術をメインにしているため「マリノスとはポジションの取り方とかが全然違うので、出しどころの選択肢とかも全然違う」と畠中も慣れるまでに時間はかかったが、随所に持ち味を発揮した。
1つの特徴的なプレーは「縦パス」だ。それもセントラルMFに預けたり、高い位置をとるサイドバックに通したりするだけではなく、2列目ないし最前線のアタッカーに1本で最善のボールを届ける鋭いグラウンダーのパスを武器にしている。
マリノスで言えば、畠中からインサイドハーフの天野純や、左ウィングのマルコス・ジュニオールに対して蹴っているものがそれに当たる。このパスによって相手がプレッシング時に前へ向けたエネルギーを無効化し、攻撃の局面を一気に前に進めることができる。
森保ジャパンでは、左サイドに入っていた乾貴士が畠中からのパスのターゲットになっていた。とはいえ2人とも実戦のピッチ上で一緒にプレーするのは初めてで、タイミングを合わせるのには時間がかかっている。
主に乾が左サイドから中寄りにポジションを移そうとしたタイミングで、畠中は縦パスをつけようと狙っていた。だが、序盤はなかなか2人の呼吸が合わず、パスも正確性を欠いた。畠中から乾への縦パスが初めて見られたのは32分のこと。この時は、受け手となる乾が相手マークを振り切れておらず、畠中からのパスを受けたところでディフェンスに囲まれてしまった。
2本目は直後の33分にも畠中から、中寄りに動いた乾へ鋭いパスが通る。ここではタイミングも合い、乾はそのまま前を向いてドリブルに移ることができた。森保監督は序盤からピッチ上の選手たちに「テンポを速くしてパスを出していこう」と指示を送っていたが、なかなか思い通りにいかない中で、局面をがらりと変える畠中のパスは、攻撃のテンポを上げることに一役買っていたと言える。
そして前半からタイミングを図り続けた努力が、1つのチャンスの形に結実したのが後半の58分だった。乾の中へ入ってくるタイミングと、相手選手間の狭い隙間に通された畠中の縦パスのタイミングがピタリと合い、そこから鎌田大地がGKと1対1になる決定機を生み出せたのである。