63分に迎えた決定的なチャンス
ベンチ入りしたメンバーのなかでただ一人、遠征用の公式スーツに着替えていたことだけが、誰よりも遅れて試合後の取材エリアに姿を現した理由ではなかった。試合を重ねるごとに存在感を増しているFC東京の17歳、MF久保建英が発した第一声には、さまざまな意味が込められていた。
「リプレイを10回くらい見たんですけど、(ゴールの枠には)入っていなかったですね」
ホームの味の素スタジアムに名古屋グランパスを迎えた、17日の明治安田生命J1リーグ第4節。唯一の開幕3連勝をマークし、キックオフ前の時点で首位に立っていた難敵を1-0で退けた大一番で、最初に久保に問われたのは63分に迎えた決定的なチャンスだった。
ハーフウェイラインからFC東京の自陣内へ少し入ったエリアで、激しい攻防が繰り広げられていた直後だった。こぼれ球を拾い、体を反転させたグランパスのボランチ、ジョアン・シミッチの眼前に久保が立ちはだかる。鬼気迫る激しいボディコンタクトを介して、再びボールがこぼれた。
素早く反応したFC東京のキャプテン、MF東慶悟からパスを受けたのはFW永井謙佑。直前の54分にカウンターから今シーズン初ゴールとなる先制弾を決めていた、Jリーグを代表する韋駄天が再び加速を開始。永井へ一度近づいた久保は、コースを取り直して右側をフォローしていった。
左斜め前方へ囮で走るFWディエゴ・オリヴェイラに、グランパスの右サイドバック、宮原和也が引きつけられた。センターバックの2人、中谷進之介とキャプテンの丸山祐市の視線は永井に釘付けになっている。一方で左サイドバックの吉田豊は、まったく戻り切れていない。
必然的に久保の目の前には大きなスペースが広がっていた。永井からスルーパスが来れば、間違いなくグランパスの守護神ランゲラックと1対1の状況にもち込める。さまざまな駆け引きが散りばめられたカウンターは、永井が選択したシュートで最初のクライマックスを迎える。