現在のプレースタイルはいかに形成されたのか
ここでもし中盤やFWの選手に一気に長い縦パスをつける際、畠中は「前の足」にボールを正確に届けることができる。この「前の足」というのは、パスの受け手となる選手が出し手に対して「半身」になってボールを引き出す際に、相手ゴールに近い方の足のことを指す。
受け手がパスを「前の足」でコントロールできるなら、そこで奪われるリスクを最小限にしながらスムーズに前を向いて次の展開へとつなげることができる。畠中は2手先、3手先まで自分たちに有利な展開を作るための高精度なパスを左右両足で蹴ることができる。
そもそも彼がマリノスに来た当初、左利きのセンターバックかと勘違いしていた。それくらい利き足でない左の精度も高く、両足で遜色なくボールを扱える。ところが畠中によれば、左足の技術はつい最近身につけたものだというのだ。昨季が終わる頃、左足の精度の秘密について彼は意外な事実を明かしてくれた。
「正直、左を使えるようになったのは今年(2018年)からなんです。3月〜4月頃、右足を痛めて、左足しか使えない時がちょっとあって。1ヶ月か2ヶ月くらいだったんですけど、その時のおかげで、今こうしていいプレーになっているんだと思います。(右足が)本当に痛くて、強いボールが蹴れなかったので、左で蹴るしかないと思って必死に練習しましたからね」
たった2ヶ月でJ1でも通用する左足のフィード力を身につけられるとは末恐ろしい。畠中の成長速度は、周りの想定をどんどん上回っていく。まだJ1で9試合しか経験していないにもかかわらず、森保一監督の目に止まってA代表に引き上げられたのも、そういった成長への貪欲さがピッチ上のパフォーマンスに表れていたからだろう。
プロ2年目まではJ2でもほとんど試合に絡めず、武者修行先の町田で強度の高い戦術を掲げる相馬直樹監督に学び、対人守備の強さを身につけた。帰還したヴェルディではミゲル・アンヘル・ロティーナ監督とイヴァン・パランココーチからスペイン式の戦術を教え込まれ、その中でビルドアップに貢献するための判断力やプレー精度を高めていった。今、ポステコグルー監督率いるマリノスでは、それらを全て活かしながら、畠中独自のプレースタイルを磨いている。