2人で1つ
優れた選手とのコンビネーションが確立されるまでに、どれぐらい時間がかかるものなのか。そう質問されたディエゴ・マラドーナは「10分」と答えている。
サッカーにほとんど言葉はいらない。最近は「言語化」が流行だが、コンビネーションを生み出すのは言語以外の何かだ。だからサッカーは世界に広まり、人々を束の間でも幸せにできるのかもしれない。音楽にも言葉の壁はなく、悲しい音は不思議なことに世界のどこでも、聞いた人を悲しい気持ちにする。絵画や造形物も同じく、そこに言語は必要とされていない。明確ではないが確実に伝わる、言葉よりはるかに強い何かがある。
コンビネーションには相性もある。ほとんど互いに口もきかない間柄なのに、フィールド上ではなぜか息ぴったりという例は珍しくなく、人間的な相性とサッカー的な相性は全然別だったりするのだが、フィールド内外で仲が良いにこしたことはない。
今野泰幸が「ヤットさんのゴルフ」について楽しそうに話していたのを思い出す。
「普通は打つ前に素振りしたりするじゃないですか。ところが、ヤットさんはスタスタ歩いて行ってそのまま打っちゃうんですよ(笑)」
FKやCKを蹴るときに素振りしないでしょ? 遠藤保仁ならそう言いそうだが、その独特の感性に対して今野は憧憬の念を抱いている。一方、今野のアジリティとボール奪取力は遠藤にはない能力だ。遠藤と今野、互いに補完し合う関係のセットである。
ビルドアップでセンターバックが左右に大きく開いたとき、MFがその間に下りてくることはよくあるが、ガンバ大阪では遠藤と今野が2人ともセンターバックの間にすっぽり入りそうになることさえある。それぐらい2人で1つの関係になっていて、2人はずっと離れずにいる。