イニエスタも再出発に日本を勧め…
「辛い時期もあったけれど、僕は本当に恵まれていたと思う。人生において信じられない経験を積むことができた。偉大なプロフェッショナル、チームメートたち、友人たちのことは一生忘れない。クラブには恩があるし、僕にとってはずっと『家』だ。この思い出を胸に、バルサを去る」
来日直前に行われたバルセロナでのお別れ会見には、多くのメディアだけでなくエルネスト・バルベルデ監督やエリック・アビダルSDをはじめとしたクラブスタッフ、カルロス・アレニャーら現役選手、家族も出席し、サンペールが感極まって目頭を抑える場面もあった。
トップチームでの公式戦出場が13試合しかない選手に、退団会見を行うのは異例のこと。だが、6歳から18年間在籍し、クラブ史上唯一の純粋なるカンテラーノ(下部組織出身者)には暖かく送り出される場が設けられた。「バルサで成功するのが僕の夢で、今季はバルサで終えたかった。けれど決断するのにふさわしい時だった」という言葉も重い。
また、記者会見では神戸からのオファーを受けて移籍を決断までわずか1週間しかなかったことと、イニエスタからの熱烈な誘いがあったことが明かされた。その勧誘の内容を、サンペールは7日に都内で行われた記者会見の中で次のように語った。
「アンドレスが僕に電話をくれた時は、神戸がいかに綺麗な場所でバルセロナに似ているか、『神戸に住めば君もきっとこの街が気に入るよ』と言ってくれた。そしてチームについては、『ヴィッセルはバルサと同じスタイルを標榜しているから、君がこちらに来て何も困ることはないと思うし、素晴らしいサッカー人生のステップになる』と言ってくれた」
イニエスタはサンペールとバルサで共に練習や試合を重ねた仲で、ラ・マシアの後輩がいかに大きな才能の持ち主であるか、日本にいる誰よりも深く理解しているはずだ。これからまだまだ伸びていくであろう逸材を、Jリーグに誘ったことにも意味がある。
もし来日して半年経って、イニエスタがJリーグに失望していれば、サンペールを呼び寄せてキャリアの再出発とさらなる成長を目指す場として勧めるわけがない。偉大な8番は、バルサ育ちの24歳だけでなく27歳を迎えようとしているJリーグのポテンシャルも信じているからこそ、将来有望な若者にもチャンスがあると感じたはずだ。
サンペールは「Jリーグは世界でも重要なリーグになっていく、伸び盛りなリーグだと思っている」とその印象を語り、「神戸のプロジェクトに参加して結果を出していくことが僕の使命」と決意も述べた。
燻りかけた黄金色の素材はJリーグで輝きを取り戻し、キャリアを再び軌道に乗せられるか。6歳から在籍した“家”を離れるという覚悟の末の決断は、サンペール自身にとって将来と人生をかけた大きな挑戦となる。
(取材・文:舩木渉)
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