純粋なるバルサの遺伝子
2つ目の場面でも、「ブシ(ブスケッツの愛称)のキャラクターを知っている。彼は一度ストップして、トリックを入れながら前進するだろう」とサンペールが分析すると、映像の中のブスケッツがその通りに動くのである。1つ目よりも多くの選択肢がある中で「確かにかなり複雑だけれど、彼にとってはコントロールできている状況だよ」と、偉大なる先輩の思考を完璧に理解していた。
この番組の名前「ADN」は、英語に直すと「DNA」。つまり日本語では「遺伝子」になる。サンペールには間違いなく「バルサの遺伝子」が備わっている。プレースタイルからもそれは明らかに見てとれる。
最も高い適性を示すのは4-3-3のピボーテだろう。逆三角形の中盤の底でディフェンスラインからボールを引き出しつつ、シンプルなパスを1タッチや2タッチで捌きながらチーム全体のリズムを整え、ゲームを組み立てていくのがサンペールの最も得意とするやり方。
バルサのピボーテに求められる広い視野と思考スピード、プレー判断の正確さと速さは下部組織時代から磨かれてきた。守備で1対1の強さや、高いインテンシティを発揮するのは難しいが、ビルドアップ面での貢献度の高さを考えれば、そういった強度は他の選手で補うこともできる。
まさにブスケッツ2世と称されたのは、こうしサンペール自身のプレースタイルにも由来している。ただ、先達があまりに偉大すぎたこともあって、バルサのトップチームの壁は厚かった。現在主力として活躍しているセルジ・ロベルトは器用さを武器に生き残っていったが、スペシャリスト的な要素の強いサンペールはなかなか継続的にチャンスを得ることができなかった。
暗雲が立ち込め始めたのはバルサBに昇格して3年目の2015/16シーズン。この時、チームは2部から2部B(3部相当)に降格してしまい、サンペールにとっては物足りない競争を強いられることになった。一説には、Bチームで抱えていた有望株を1部クラブへのレンタルに出すことをバルサが望まなかったとも言われている。
当時のバルサのトップチームにはブスケッツのみならず、ハビエル・マスチェラーノ、イニエスタ、セルジ・ロベルト、イバン・ラキティッチ、アルダ・トゥラン、ラフィーニャと中盤に豊富な人材が揃っていた。
サンペールにとってはトップチーム昇格が困難で、かつ2部Bの張り合いのない環境で過ごすならレンタルでの武者修行も選択肢にあっただろう。実際、アーセン・ヴェンゲル監督がアーセナルに誘っていたという報道もあった。