内田がサポーターに「言い返した」理由
そんな内田が、試合後に珍しく“キレた”。しかもサポーターに対して。等々力陸上競技場のアウェイ側スタンドから、開幕して2試合勝ちのないチームへの不満が噴出した。しかし、キャプテンとして矢面に立った彼は面と向かって言い返した。サポーターも“鹿島らしく”あってほしい。内田なりのメッセージだった。
「今日の戦い方に関して、あーだこーだと言われるのは、キャプテンマーク巻いていますけど、そこはちょっと納得できなかった。こうやって平日に応援しにきてくれているのは本当にありがたい。その中で、アウェイの(相手の)サポーターが見ている中で、自分たちのサポーターにブーイングされるのは、『ああ、鹿島うまくいっていないんだ』と思われても仕方ない。そこは隠してでも、次に向かわなきゃいけない。
そこは選手だけじゃなくてサポーターも、1個レベルの高い話だけど、そういう関係性を築きたいなと思っているし、僕も向かっていきましたけど、笑いながら話せるくらいの代表者が1人くらいいてくれたらいいというか、いや感謝していますよ。そういう声で僕なんかやってきて、若い選手のプレッシャーだったり、チームとしての勝たなきゃいけないという雰囲気を作ってくれるので。そういうのはあった方がいい。ただ、みんなを守らなきゃいけないのでね、僕は。チーム自体を、選手を。だから言いました」
サポーターとのやりとりを見て、昨年末にスペインで観戦したレアル・マドリーの試合を思い出した。ホームでラージョ・バジェカーノに大苦戦を強いられたマドリーの選手たちは、1-0で勝利したにもかかわらずスタンドのファンからブーイングを浴びた。翌日の『マルカ』紙の1面は「退屈なベルナベウ」と見出しが打たれ、不甲斐ないマドリーに対して辛辣な記事が並ぶ。
彼らはピッチ上の“勝者”でありながら、同時に“敗者”でもあった。「マドリーたるもの王者たれ」というファンからのメッセージ。一時の勝利にあぐらをかくのではなく、常に勝者でなければならない。それこそが“王者”だと。あのラージョ戦の後、マドリーはすぐにUAEに飛んでクラブワールドカップに臨んだ。鹿島はそこで再び“白い巨人”に敗れ、力の差を見せつけられた。本当の意味での強さを手に入れるには、まだまだ道半ば。常に勝者であり続けるため、内田はサポーターにも単なる“勝者”を超えた振る舞いを求める。
昨年ドイツから日本に復帰して、右ひざの状態を確かめながら徐々に週1試合のペースで出場するようになったが、まだ万全な状態から程遠い。今季開幕前のキャンプは別メニュー調整が続いたという。でも、内田にはまだまだチームに貢献できる自信はあるし、キャプテンとして先頭に立って鹿島を引っ張っていかなければいけないという自覚や責任もある。
その強い思いで、内田はピッチに立ち続ける。キャプテンとして臨む今季は、リーグタイトルを取り戻して鹿島の強さを証明するためのシーズン。誰かが1人で頑張るのではなく、チームとして勝ち続けるためには若手の成長も、サポーターの成熟も必要だと彼は考えている。名前や過去の栄光だけでタイトルが獲れるわけではない。
鹿島に負けは許されない。引き分けでもダメ、追い求めるのは勝利のみ。鹿島アントラーズよ王者たれ――それこそが内田篤人という男が背中で示し続ける、唯一にして無二のメッセージなのではないだろうか。
(取材・文:舩木渉)
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