「準備できてない選手はいるのかなっていうのは感じるよね」
過酷な現実の中でも、原口元気は、努めて前を向いていた。
3月3日、灰色の厚い雲が垂れ込めるメルセデスベンツ・アレナーー。
ブンデスリーガ第24節。ハノーファー96は、アウェイでVfBシュトゥットガルトと対戦した。残留を争う17位と16位の直接対決。戦前の勝ち点は、ハノーファーが14だったのに対し、シュトゥットガルトは16だった。その差はわずか2ポイント。ここで勝つことができれば、シュトゥットガルトを追い抜き、ひとまず自動降格圏を脱出することができる。原口は「入れ替われるチャンスでしたし、離されるピンチでもあった」と言う。
だが、この極めて重要な試合で、ハノーファーは試合開始早々に右サイドからピンチを招くと、4分には失点してしまう。
ペナルティエリアの手前で縦パスを受けたマリオ・ゴメスは、どフリーだった。ぽっかり空いたスペース。あまりに無防備だった。元ドイツ代表FWが左足を振り抜くと、ボールはゴールの右下の隅に勢いよく吸い込まれていった。
試合後、原口は声を振り絞った。
「あの失点によって自分たちが1週間準備してきたものが、正直…無駄になるというか…」
“天王山”での勝利を心に期していた背番号10は、大事な試合であっさりと失点を許してしまうチームメイトを目の当たりに、やるせないようだった。
「チームとしては準備してきたけど、正直、気持ちの面であったり、フィジカル的な面であったり、準備できてない選手はいるのかなっていうのは感じるよね。だって、これだけちゃんとチームでやってきた中で、個人的なミスであったり、まあセットプレーでマーク外したりとか、それをやられてしまうと僕らとしてはどうにもこうにもいかないので。人に責任押し付けるのはどうかと思うけど、まあ正直ほんとに4分でやられてしまうと、何も表現できずに終わってしまうなっていうのは…」