心理的にも相手の優位に立ってプレーしていた
開幕戦では「個」の力を生かしたドリブル突破からシュートを放つシーンもあった。一方で今回の鳥栖戦では相手ゴール前で牙を研ぎ続けた。
浮遊した状態からスッとポジションをずらしてパスを受けるなど、ギアが上がるまでが速い。そして、味方もビジャの動きをよく見ている。この日はダンクレーや山口蛍が何度もビジャを狙っていたが、GKキム・スンギュも同様だった。相手CKからの2次攻撃をキャッチすると、動き出したビジャに素早くパントキックを送った。
試合の流れや、味方と相手の立ち位置を見て自分がどこにいればいいかよくわかっている。だから動きに無駄がない。イニエスタもそうだが、ビジャにも同じことが言える。受ける動きを繰り返してもボールが出てこないことはあったが、それは決して徒労ではない。むしろ、どのタイミングが合うのかをすり合わせているようだった。そうした一つひとつの動きが決定機を近づけ、実際に決勝ゴールを奪うこととなった。
試合を重ねていけば左をスタートポジションとしたプレーにも怖さが増していくかもしれない。それでも、中央で駆け引きを行うことで相手は常に対応を強いられていると感じるはずだ。その意味で、鳥栖戦のビジャは心理的にも相手の優位に立ってプレーしていたと言えるのではないか。
ゴールを奪うための動きを怠らず、訪れたチャンスを確実に沈める。マークする相手にとってはもちろん、チャンスに直結する動きを見逃してはいけないから味方も気が抜けない。37歳とはいえ、クオリティは落ちていない。彼もまた、神戸というチームのレベルを引き上げる存在となるだろう。
(文:青木務)
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