「なぜ使ってくれないのか」から「何が足りないのか」へ
トップチームでなかなか試合に絡めない状況に対して、当時の久保が思い描いていたベクトルは、おそらくは長谷川監督をはじめとする外部へ向けられていたはずだ。果たして、新天地マリノスでは加入直後のベガルタ仙台との天皇杯4回戦で先発し、DF畠中槙之輔のゴールをアシストした。
迎えた8月26日。敵地で行われたヴィッセル神戸戦でJ1初先発を果たした久保は、両チームともに無得点で迎えた56分に、値千金の先制弾となるJ1初ゴールをゲット。マリノスを勝利に導くと、中2日で行われた清水エスパルス戦でも先発メンバーに名前を連ねた。
順風満帆な軌跡はしかし、9月以降になると急停止を余儀なくされる。マリノスが熾烈なJ1残留争いに巻き込まれた状況下で出場機会が激減し、最終節までにベンチ入りした8試合のうち、後半途中からピッチに立ったのはわずか3試合。プレー時間は40分にとどまった。
環境を変えても、自分自身を取り巻く状況は変わらなかった。FC東京時代に抱いていた「なぜ試合で使ってくれないのか」という不満にも似た外向きの疑問が、おそらくは「何が足りないのか」と自分自身へと向けられ始めたはずだ。
マリノスへ期限付き移籍する直前のこと。FC東京がU-23チームを参加させているJ3がいつしか主戦場となっていた久保に対して、トップチームのコーチを兼任していたFC東京U-23の安間貴義監督はこう言及している。
「トップチームのサイドハーフは、強度がすごく高いプレーをしなければならない。長谷川監督のもとでいま、久保は守備の基本を教わっています。トップチームでなかなか出ていないので、どうしたのかと思う方もいるはずですけど、彼は確実に強くなっています。もうちょっと待っていただけると、おそらくJ1でも再び出られると思います」