チーム全体に影響を及ぼす選手になりつつあるからこそ
前半は出色のパフォーマンスで、後半も途中までは違いを生み出していた。例えば49分、左サイドでパス交換から自分に相手を引きつけておいてヒールパスを選択。外を上がってきた味方を使っている。57分には、中盤で受けると圧力をかけようとした相手をワンタッチで逆を取ってターン。いずれのプレーも周囲の見ながら状況把握していたからこそできたプレーだった。
ただし3点差をタイに戻されると、チームは歯車が狂ったようにぎこちなくなった。パスをつなげず、ボールもラフになり相手に拾われる。香川は下がったりギャップに入ったりとフリーで受ける動きを繰り返したが、チームは最短距離でゴールを目指そうとするシーンが増え、その度にボールを失った。前へ前へと気持ちばかり焦ってしまい、プレー精度が落ちる。行ったり来たりの展開の中で、香川は次第に試合から消えていった。
前半だけで3点差としたのだから、何としても勝たなくてはならなかった。今後に向けチームの修正力が問われるところであり、香川としても相手に傾く流れを軌道修正したかった。ボールが香川を経由しない場面が増えたのは確かだが、そうした中でも存在感を発揮できれば評価はさらに高まるだろう。
香川は優れたチームプレーヤーだけに、良くも悪くもピッチ内の状況に左右される。アタッカー陣との連係は試合を重ねるごとに向上しており、今後も多くのチャンスに絡むだろう。そして、劣勢に陥った時にどれだけ回りを落ち着かせることができるか。リーダーシップを発揮するところももっと多く見てみたい。
ベシクタシュにおける香川真司はそれだけ、チーム全体に影響を及ぼす選手になりつつある。
(文:青木務)
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