イニエスタとメッシ、その決定的な違い
もちろんビジャが中央ではなく、サイドで起用されることも織り込み済みだった。右ウィングバックとしてスペイン代表の歴代最多得点者と対峙した舩木翔は「分析の中でビジャが自分のサイドにくることは想定していた」と明かしている。
一方、神戸の狙いがハマったとは言い難かった。もちろんボール保持の面ではセレッソを上回り、その点で成果が見られた反面、“偽9番”を採用したが故にゴールが少々遠ざかってしまったのも事実だ。「バルサ化」を掲げる神戸が実践した“偽9番”は、かつてそのバルサが用いていた同様の戦術とは似て非なるものであることにも触れておかなければならない。
ビジャがバルサに在籍していた時期、ペップ・グアルディオラ監督はリオネル・メッシを最前線で“偽9番”として起用し、その戦術の1つの完成形をピッチ上で表現した。なぜメッシがそのポジションで機能したか。それは稀代の10番が、“9番”としての機能性も兼ね備えていたからに他ならない。
メッシは1トップとして構えるのではなく、基本的には相手の最終ラインとセントラルMFの間のスペースをスタート地点としていた。そこから時に中盤まで降りてゲームメイクに絡みつつ、ゴール前にも飛び出していく。
目の前のセンターバックからすれば、自分の手の届かない場所で世界最高の選手に自由に動かれるほど恐ろしいことはなかっただろう。それに加え、メッシはボールを持てば自分で前を向いてドリブルで仕掛けることもできるし、ラストパスも、フィニッシュも一級品。放っておくことなどできはしない。
すると対峙するセンターバックの意識は目の前のメッシに向き、後ろが疎かになる。そのタイミングで両ウィングのビジャやペドロが、サイドバックとセンターバックの間のギャップを狙って斜めにカットインしてくればひとたまりもない。一瞬でゴールを陥れられてしまう。
イニエスタは当時、彼ら3トップの力を引き出すためのサポートキャストの1人であって、必ずしも主役ではなかった。スタートポジションは相手の右サイドバックと右センターバック、右セントラルMFが形成するトライアングルの中央で、誰がマークにつくか曖昧な立ち位置で前を向いてボールを運び、アタッカーたちに動き出しを促す役割だ。針の穴を通すような正確さで放たれるラストパスは芸術的だった。