Jリーグクラブからは声がかからず。それでも
高校進学を前にして、浦和レッズ、セレッソ大阪、横浜F・マリノスといったJクラブのユースからオファーが届いた。熟慮した末に全国の舞台に近く、2種年代の最高峰プレミアリーグEASTでも戦う青森山田が、さらに成長していくうえでベストの環境だと決断した。
しかし、待っていたのは日本有数の豪雪地帯で覚えた驚きと、トップチームの試合にまったく出られない日々だった。バスケスの左足に宿る非凡な力を認めながらも、3年生になるまで「干しました」と振り返る青森山田の黒田剛監督は、その意図をこう説明してくれたことがある。
「どうしても左足に固執するし、すべてバイロンにボールが集まる状況でプレーしていた影響で、守備をしたことも、おそらく教えられたこともなかったんでしょうね。だからこそ『それじゃあプロに行っても通用しないぞ』と言いながら、右足や守備を徹底的に練習させました」
流通経済大学柏(千葉)と対峙した全国高校サッカー選手権決勝。MF檀崎竜孔(北海道コンサドーレ札幌)の逆転ゴールを導いたのは、2度の切り返しで2人のマーカーを置き去りにして、抜け出した右サイドの深い位置から右足で繰り出されたバスケスのグラウンダーのクロスだった。
もっとも、大会を通して異彩を放ち続けたバスケスに、Jクラブから声がかかることはなかった。外国籍選手であるがゆえに、即戦力に値するパフォーマンスを求められる。黒田監督とも話し合い、昨春の段階から強化スタッフが視察に訪れ、5月に練習参加していたいわきFCへの加入を決めた。
開始14分までに2ゴールを奪いながら、屈辱的な4連続失点を昌平(埼玉)に献上。まさかの初戦敗退でインターハイを終えた直後の決断だった。当時の自分へ「あのプレーならば声はかからない」とダメ出しするバスケスは、一方で心の片隅に抱くこんな言葉を漏らしたこともあった。
「正直、J2なら全然行けると思うんですけど……」