陣容刷新でスリムかつ競争力ある集団に
横浜F・マリノスは今季も「Brave&Challenging 勇猛果敢」を掲げる。プレースタイルも、指揮官の哲学にも一片のブレもない。アンジェ・ポステコグルー監督は「何も変わらない。我々は昨年始めたことを続けていくだけだ。全てにおいて進歩していきたい」と勇敢に突き進むことを力強く宣言した。
昨季の結果を見れば、不安がないわけではない。56得点はJ1を制した川崎フロンターレに次ぐ数字だが、56失点はリーグ内で3番目に多い。順位こそ12位となっているが、積み上げた勝ち点はプレーオフに回ったジュビロ磐田と同じだった。
そして最大の驚きは、2019年に入ってから発表された元日本代表DF中澤佑二の現役引退。「自分の決断を信じ、1ミリの後悔もなくピッチを去ろうと思います」とスパイクを置いた40歳の影響力は計り知れなかった。
昨季終盤に「佑二さんが怪我で離脱したら、ピッチ上でリーダーシップを取る人がいなくなってしまった」と嘆く選手もいたが、実際にチームからもいなくなってどのような影響が出るかは未知数だ。
他にも多くの選手が去り、また多くの選手が新たに加入した。昨季の主力ではリーグ戦13得点でチーム内得点王だったFWウーゴ・ヴィエイラが契約を更新せずトルコ1部のシヴァススポルへ、激しいポジション争いを繰り広げていたFW伊藤翔も鹿島アントラーズへ移籍した。
昨年11月に日本代表初招集とデビュー戦ゴールを挙げたDF山中亮輔は浦和レッズへ。キャリアハイの4ゴール8アシストを記録した左の矢を失ってしまった。他にはベテランMF中町公祐が夢を追ってザンビアのZESCOユナイテッドFCへ旅立ち、MF久保建英は移籍元のFC東京に復帰、継続した出場機会を望めない若手たちは武者修行へと出された。
一方、新加入選手も多い。浦和から元日本代表FW李忠成、ブラジルからFWマルコス・ジュニオールとFWエジガル・ジュニオ、川崎フロンターレから東京五輪世代のMF三好康児など、即戦力となりうる選手たちが加わった。また山中が抜けた穴には昨季ヴィッセル神戸に所属していたタイ代表DFティーラトンを補強し、ユースからも高い潜在能力を秘めた2人が昇格している。
ポステコグルー監督は「多くの新加入の選手たちもいるが、2回のキャンプで選手個々でもチームとしてもあらゆる面で成長しようと取り組んできたし、良くなっている」とすでに新戦力たちに手応えを感じている様子。チームには昨季のベースがあり、練習を見る限りでも新加入選手たちはスムーズにフィットしているようだった。
そこで指揮官が強調するのは「すべてのポジションで優れた選手たちが毎週競争する」こと。実際、チームとしては各ポジションにおおむね2人ずつの編成でスリムになった反面、競争相手が明確になってお互いを高め合いながらチャンスをうかがう引き締まった雰囲気が出来上がっている。
昨季不動のレギュラーだった松原健と右サイドバックのポジションを争う広瀬は「サッカー選手は試合に出てナンボなので、健くんのことはリスペクトしますけど、自分が試合に出ることを常に意識しながらやっています」と充実した表情で話していた。
広瀬と同じく新加入のパク・イルギュも「雰囲気はめちゃめちゃいい」とチーム状態を絶賛し、次のように分析している。
「各ポジションに2人ずつ置いて、いい意味で競争させることが、すごく今年のチームには合っているんじゃないのかなと。お互いが遜色ないレベルにいるので、刺激しあいながら、吸収しあいながら、学びながらという環境が作れている。プロなのでそこでギクシャクするのかなと思いきや、結構みんな若くて仲が良いんですよね。それが今年は本当にうまく融合している感じがして、すごく雰囲気がよくて。
SNSにもみんな結構上げていたじゃないですか。『#今日の喜田さん』みたいなのもそうですけど、この人がいじられ役で…みたいなのも出来上がっていますね。すでに1つのハーモニーを奏でられている気がして、仲が良いんですけどやる時はやるというメリハリができているので、すごく充実していると思います。自分は特に。みんなもそこは感じていると思うので、すごく良いチームだと思います」
開幕を約10日後に控え、チームの雰囲気がすこぶる良いのは確か。昨季の課題だった守備力がどこまで改善され、新たなストライカーたちがどれだけハマってゴールを量産できるかなど不確定要素もあるが、ポステコグルー体制2年目のアタッキング・フットボールの進化に期待したい。