ゲームを壊しかねない「ミス」も引きずらず
2月2日、冷淡な灰色の空の下、小雨が散らつくコメルツバンク・アレナ――。
ブンデスリーガ第20節。迎え撃ったのは首位のボルシア・ドルトムント。目の前にはパコ・アルカセル、マルコ・ロイス、ジェイドン・サンチョ…欧州各国の代表チームに名を連ねるアタッカーたちが顔を揃えている。だが、そんな名だたる選手たちと相対しても、何をいまさら、長谷部誠が動じることはない。
キックオフ直後のことだった。セバスチャン・ローデのバックパスを受けた不動のリベロは、アルカセルに詰め寄られると、右CBマルティン・ヒンターレッガーへのパスをカットされ、ボールを拾ったロイスにワンタッチで交わされてしまう。一目散にアイントラハト・フランクフルトのゴールを目指すドイツ代表FW。左CB エヴァン・ヌディカが素早く戻って対処したことでことなきを得たが、今季の長谷部にしては珍しい、開始早々にゲームを壊しかねない「ミス」だった。
試合後、ゴール裏で気焔を上げるファンたちの誰もがヒヤリとさせられたであろう冒頭の場面を、長谷部は次のように振り返っている。
「どちらかというと単純な技術ミスというか、今日のピッチの濡れている感じでちょっと詰まってしまったっていうのはあります。立ち上がりね、あれでやられなくて良かったなって思いますね。チームとしてはね、その僕のミスの所は置いておいたとして、立ち上がりは非常に良い入り方ができたと思います」
しかし、ここからが骨頂と言うべきか、長谷部は「ミス」を引きずらなかった。それどころか、9分には、緊迫感のあるドルトムント戦の最中、少し周りが見えていないフィリップ・コスティッチに声を掛けて落ち着かせ、ヌディカに指示を出し、後方から丁寧にビルドアップを図る。いつも通りに手綱をさばいていった。