変化したプレースタイル。トルコで証明できるか
サッカー小僧のような風貌だった21歳のアタッカーは、欧州での唯一無比の戦いを続けながら、2度のワールドカップを経験し、日本代表の選手たちの中でも風格を漂わせる29歳のフットボーラーとなった。プレースタイルも、技術と俊敏性を活かしてゴール前に侵入するものから、後方から緻密にゲームを組み立てるそれに変わった。
それは加齢による衰えの現れなのだろうか。この3月に香川は30歳を迎える。だが、スピードに頼るばかりがサッカーではない。身体能力の多少の退行が、プレーに奥行きをもたらしさえすることは、既にアイントラハト・フランクフルトで35歳の長谷部誠が証明している。
何より香川自身が、これから始まるベシクタシュでの戦いの中、その技術が錆び付いているかいないかを、イスタンブールのファンたちの前で、自ずとピッチの上で示すだろう。
いずれにせよ、香川はドルトムントで歳を重ね、幾多の試合を重ね、フットボーラーとして成熟した大人となった。そしてやってきたのだ。いよいよ「家族」の下を離れる時が――。
それは決して悲嘆すべきことではないだろう。機が熟すれば、住み慣れた家や土地から離れる時は、誰にでもやってくるものだ。
そしてレンタル移籍ということを踏まえれば、ベシクタシュ側の買い取りオプションの行使次第では、来夏、香川は一旦ドルトムントに帰ってくる可能性もある。その時、ルール地方に住むファンたちは、日本人フットボーラーを温かく迎えてくれるに違いない。
「おかえり、シンジ」、と。
(取材・文:本田千尋【ドルトムント】)
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