日本から世界クラスのセンターバックに
本来なら2017年夏に欧州挑戦を志していたが、本人も「個人的に逆に評価を下げてしまった大会というか。納得のいく大会ではなかった」と認めるU-20ワールドカップでの挫折を経て、夢だった海外へ渡る機会を掴めず、半年後に先送りになった。さらに昨年1月のシント=トロイデンVV加入から半年間はほとんど試合に絡めていなかったのだから、冨安を取り巻く周囲の状況は今季になって一変したと言える。
その間にリーダー的な才覚も芽生えた。ベルギーで話しを聞いた時はちょうどチームの調子が落ちていた時期だったが、決して浮き足立つことなく「もちろん1人ひとり言いたいことはあるだろうし、不満も出てくるとは思いますけど、そうなっては絶対に良くない。みんなそれぞれ言語が違うので、そこで僕たち日本人だけであーだこーだ言っても意味ないと思うし、そういったところでチームがバラバラにならないようにしないといけない」という発言からは中心選手らしい自覚のこもった頼もしさを感じた。
そして迎えたアジアカップ。冨安はこの半年間での飛躍的な成長をピッチ上で存分に発揮している。「もし試合に出れてなかったら、まずここにも来られてないと思いますし、ベルギーで試合に出れてるということが大きい」と成長を実感するのは、やはり公式戦での経験からだ。
もしイラン戦のようなパフォーマンスを継続的に発揮できれば、近い将来のビッグクラブ移籍も夢ではないだろう。ベルギーリーグに収まっている器でないのは確か。もっと高いレベルのリーグやクラブで勝負できるセンターバックなのは間違いない。
冨安はイラン戦後「もちろんメンタル的に苦しい時期もありますし、僕もポジティブなタイプでもないので、ネガティブになりがちな時もありますけど、まあでもやり続けることしかないと僕は思っていますし、やり続けるだけだと思っています」と自らを分析し、ハイパフォーマンスの直後でも浮かれた様子は一切なかった。これこそが彼の成長を後押しする要素でもある。
一方で、「(日本代表に)定着したいですね」と言い、さらに「ここまできたら優勝したいですし、当然チームの雰囲気もいいので、みんなと最後の瞬間を分かち合うことができればなと思います」とアジア制覇への意気込みを力強く語っている。
残すはあと1試合。冨安の手の中には日本代表への定着とアジア制覇の両方を、自らの手で引き寄せるチャンスがある。アジアカップ決勝の舞台で輝けば、未来は大きく広がる。日本からワールドクラスのセンターバックが生まれるかもしれない。それだけのポテンシャルを存分に示している冨安の将来に、今は希望が満ち溢れている。
(取材・文:舩木渉【UAE】)
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