努力の虫がクラブで積み上げた自信
とはいえ自信がないわけではないだろう。今大会、ラウンド16のサウジアラビア戦直前に「得点を取れる選手になりたいですし、周りからもそういう選手になれと言われたので、チャンスがあれば狙いたい」と話していたら、その試合でコーナーキックから見事なヘディングシュートで有言実行の決勝ゴールを叩き込んだ。
守っては自らがセンターバックとして出場した試合は、全て無失点。勝ち進むにつれて表情が柔らかくなって、その裏には手応えを得ている充実感が垣間見える。そして、日本代表での立場を勝ち取れた背景には、欧州で揉まれた経験の積み重ねがあるのは疑いようのない事実だ。
冨安は今季、ベルギー1部のシント=トロイデンVVで主に3バックの右ストッパーとして不動の地位を築いた。昨年12月に現地で彼を取材した際、最終ラインから周りに盛んに指示を送り、力強いプレーでディフェンスを引き締める頼もしい姿を見ることができた。
その時に話しを聞いたマーク・ブライス監督も「トミは昨季、1分しか出場できず、1タッチもできないという難しい時期を過ごしたが、とんでもないハードワークで素晴らしい準備をしている。努力に関してはクレイジーなほどだ。限界は遠く彼方にある。出場した最初の試合から我々のキープレーヤーだ」と大絶賛。冨安に全幅の信頼を寄せている。
シント=トロイデンVVではウィングバックの背後も含めてかなり広い範囲をカバーしなくてはならず、さらにボールを大事にするスタイルもあって最終ラインの選手にはビルドアップの起点として縦パスの頻度や精度が求められる。相手のウィンガーやストライカーには多種多様な選手がいて、彼らとの日常的なマッチアップの甲斐あって1対1も以前に比べ格段に強くなった。
ベルギーでは午前中にチーム練習をこなした後、冨安はほぼ毎日ホームスタジアムに併設されたジムに通って自主トレーニングを欠かさないという。見えないところでコツコツ積み上げてきた努力の成果は、しっかりとピッチ上に結果としてあらわれている。筋力アップによって欧州の屈強なストライカーたちにも負けない頑強さを手に入れた。ベルギーのトップリーグで臨機応変な対応力も個人戦術の幅も磨かれている。メンタル面でもフィジカル面でもタフになり、継続性も身につけた。
そうして今季はアジアカップによる離脱までリーグ戦全21試合に先発フル出場を果たすまでになり、クラブの上位躍進に大きく貢献していた。さらに実戦経験を重ねることで、今や冨安はベルギーリーグで最も市場価値の高いDFの1人となった。他に並んでいるのはスタンダール・リエージュやクラブ・ブルージュといった国内ビッグクラブに在籍する若手たちで、600万ユーロ(約8億円)という評価額はこれからも上昇を続けるはずだ。