イランが狙う一瞬の隙
後ろ向きになった瞬間、喰われる。体の向きだけでなく、メンタル的にも、ただ視線を向けただけでも…彼らはその一瞬を狙っている。
イラン代表はAFCアジアカップ2019の準決勝まで、圧倒的な強さを見せつけて勝ち上がってきた。5試合で12得点無失点。グループリーグ初戦で多くの強豪が苦しむ中、イエメン代表を全く寄せつけず5-0で粉砕した試合だけでも、今大会最強クラスのチームであることは明らかだった。
その後も大会が進むにつれて、彼らが他のチームとは段違いの領域にいるという考えが推測から確信に変わっていった。8年目を迎えたカルロス・ケイロス体制も今大会で終わり。ロシアワールドカップ出場メンバーの大半が残っているチームは、その集大成を披露すべく、闘争心むき出しでピッチを駆け回っていた。
イランのゴールにはいくつかのパターンがある。1つは準々決勝の中国戦の1点目のような、相手DFの処理ミスに対して猛然とプレッシャーをかけてボールを奪い、そのままゴールを陥れる形。3-0で勝利した中国戦は、全てのゴールがほとんど同じような流れで生まれた。
最終ラインからロングボールが蹴られると、自陣ゴール方向を見て下がりながらの対応でもたつく相手DFにプレッシャーをかけてボールを奪い、ゴールに一直線。中国の守備陣は18分、31分、91分と3度にわたってズタズタに引き裂かれた。
これには日本代表のDF吉田麻也も「中国戦なんかは特にそうですけど、相手の隙を突いたり、相手の隙を見逃さなかったり、フィフティフィフティのボールに対して自信を持っている感じはあるので、そこの処理を確実にこなしていかないといけない」と危機感を持っている。
中国だけでなく、ラウンド16で対峙したオマーンもこの形で猛獣たちの餌食になった。もちろん1つだけでなく、彼らはセットプレーからもゴールを生み出すことができ、流れるようなパスワークで相手の陣形を崩してゴールネットを揺らすこともできる。実に多彩な攻撃パターンを持っているのだ。
日本代表が準々決勝で苦戦を強いられたベトナムにも、イランはグループリーグで対戦した際に地上戦を挑んで粉砕した。ここまでの対戦相手は、イランの圧倒的な力を前にただただひれ伏すしかなかった。