W杯での苦い経験「こういう思いはもう2度としたくない」
そうした中で、武藤は前線で確かな存在感を放った。本人は「今日は下がってもらうことが多かったですけど、そこでも青山(敏弘)選手だったり、塩谷(司)選手がしっかりとボールを的確な場所につけてくれていた」と述べていたが、パスを引き出せる好ポジションを取れていたのは間違いない。前線を幅広く顔を出し、時に中盤の深い位置にも進出する大迫とはまた違った動きを見せていた。
そこにむしろ下がりすぎという印象はなく、常にペナルティエリア付近に構え、カウンター時には誰よりも早くゴール前に到達してラストパスやこぼれ球に備えていたのが武藤だった。オマーン戦では中央の2列目に人が集中しすぎないよう前線に残るポジショニングを心がけていたと明かしていたが、「ボールが入ってくる回数が少ないけど、それで焦れずにやり続けないといけない」と、我慢して最前線の1トップとしての責務を果たしていた。
ロシアワールドカップではグループリーグ3戦目のポーランド戦に出場したが、周囲と噛み合わないままモヤモヤの残る形で敗戦。その時ピッチに立っていた武藤は「負けてしまって、かなり非難されて、こういう思いはもう2度としたくないと思いましたし、だからこそ今日は内容云々よりも、何としても結果で応えなければいけないという思いはありました」と語る。
そうやって結果にコミットする姿勢をこれまで以上に見せながら、チームの中で機能する1トップとして大迫との違いも示した武藤。これまでなかなかいい形でパスを受けられなかったが、ウズベキスタン戦では相手により長い時間ボールを持たれる中でも、積極的にプレーに関与できたことをパス数などのデータが表している。愚直な「継続力」が、約3年半ぶりのゴールと逆転勝利をもたらしたのである。
「今日は(チーム全体が)素晴らしいプレーをしていたと思いますし、やっぱりこういうのがチームにあるとチームとしての底上げにつながると思う。誰が出ても戦えるということを見せられたのは非常に大きかったんじゃないかなと思います。
(決勝トーナメントは)とにかく先を見過ぎず、一戦一戦100%を出し切って勝つこと。力を残して勝てる相手ではないと思う。僕自身もしっかりと準備して、今日はやっぱり90分近くプレーできたというのはコンディション的にもかなりプラスになると思うので、自分自身またゴールを決めて日本の勝利に貢献できればいいなと思います」
「とにかく走って戦える、そこだけでここまで来られた」と自覚する“雑草ストライカー”の泥臭さが、森保ジャパンのアジア制覇への道を切り開くか。次なる相手はサウジアラビア。大迫の状態次第では、さらなるチャンスも舞い込んでくるはずだ。
(取材・文:舩木渉【UAE】)
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