「同じ実力なら若い方を使う」。過去は未来の保証にならず
とりわけ乾は、半年前の2018年ロシアワールドカップでチーム最多の2得点を挙げたアタッカーにしてはミスが多く、フィニッシュの精度も低かった。それを本人も自覚しているのか、この日の試合後は「すみません。今日はやめて…」と申し訳なさそうにしながらミックスゾーンを通過していった。近年は報道陣に対してつねに協力的姿勢を示してきた乾がこういう行動を取るのは珍しい。
「彼は守備よりも攻撃で結果を残したかったからね。でも守備は相当頑張っていたから。(最近のクラブと代表で)試合に出てないことでコンディション的にきつかったのはありますけど」とベンチから見ていた長友佑都は背番号10の胸の内を代弁したが、確かに実戦から遠ざかっていた影響は少なからずあったのだろう。
ロシアの後、赴いたベティスでは今季リーグ戦8試合(うち先発5試合)しかピッチに立っていない。UEFAヨーロッパリーグ(EL)と国王杯を含めてもフル出場は3試合だけ。持ち前のキレと鋭さに微妙な狂いが生じるのも理解できる。ボールを奪われるミスも複数あり、日本屈指のテクニシャンらしからぬ仕事ぶりだったのはやはり懸念材料だ。今回は不慣れな佐々木翔とのタテ関係だったこともやりづらさを助長した部分は皆無ではなさそうだ。
そういうマイナス面を差し引いても、30歳のベテランアタッカーである乾には時間的猶予はない。今回も中島翔哉の負傷によって追加招集された立場である通り、乾の定位置である左サイドは代表屈指の激戦区。森保体制発足後には中島と原口元気というクオリティの高い2人が君臨するが、彼らより下の世代にもこのポジションを伺う人材は多数いる。
そういう状況下で、乾がこの先も日の丸をつけてコンスタントに活躍したいと願うなら、ライバルより際立った仕事ができることを短時間で証明しなければならない。2008年から足掛け11年日の丸を背負い、ロシアでの目覚ましい成果を挙げたという実績は未来への保証にはならない。そこがベテランの苦しいところ。「同じ実力なら若い方を使う」というのは、サッカー界の常だからだ。