正座に込められた最大の真意とは?
普通ならば動揺する。心に迷いが生じてもおかしくない。しかも、先蹴りの青森山田は2人目のDF三國ケネディエブス(3年)がバーの上へ外してしまった。だからこそ、儀式を介して平常心を取り戻した。
「大久保コーチのスカウティングもしっかり頭に入れながら、あとは自分を信じるしかないと念じながら飛びました」
次の狙いはペナルティーマークからゴールラインまでの12ヤード(約10.97メートル)の間で、ゴールキーパーが主導権を握ることだ。キッカーがボールをセットしてから儀式を行い、ちょっとした間を取ることで、キッカーが8割方優位に立つとされるPK戦の構図を逆転できると言い聞かせた。
「相手がボールを置いて、自分が構えて、そして蹴って、というタイミングだとどうしても相手のペースにもっていかれてしまう。なので、自分の方から時間を作って、自分のタイミングでPK戦に入っていくことは意識していました」
最後の狙いは相手に錯覚を起こさせることだ。PK戦を想定した練習で、飯田は一度ボールに近づいてから下がる、セオリーとも言えるアプローチを取っていた。しかし、大会開幕を直前に控えた段階で、正木正宣ヘッドコーチから「それだと体が小さく見えるんじゃないか」とアドバイスされた。
なるほど、とうなずけるものがあった。黒田剛監督を交えて話し合いの場をもったなかで、かつて廣末が取り入れていたルーティーンを紹介された。正座に込められた最大の真意を、飯田はこう説明する。
「まずは自分の体を小さく見せてから、ちょっと前へ出てゴールラインに立った瞬間に、相手へ大きく見せるということです」
廣末のサイズは身長183cm体重78kg。ゴールキーパーとしては小柄となるだけに、さまざまな創意工夫を凝らしていた。身長184cm体重75kgの飯田も、導入することに異論はなかった。そして、決勝進出がかかった、まさに生きるか死ぬかの正念場で獅子奮迅の活躍を演じて見せた。