チャナティップが未来を切り拓く
昨今のJリーグにはタイ人選手が増え、昨季はA代表の10番ティーラシンも広島でプレーしていたが、期限付き移籍期間満了にともなってムアントン・ユナイテッドへの復帰が決定。現タイ代表の「海外組」は札幌に完全移籍したチャナティップと、ムアントン・ユナイテッドから横浜F・マリノスへの期限付き移籍が決まったティーラトン・ブンマタンのみとなっている。
海外での成長をタイ代表に還元し、結果を残すことで他の選手が挑戦するためのチャンスも広げる。チャナティップはそうした未来への責任も背負って戦っている。「何人かの選手が海外でプレーするようになり、タイリーグも強くなっています。全員が進歩していることを証明できたと思います」と、今回のアジアカップでの決勝トーナメント進出で彼自身もタイサッカーの成長に自信を深めているようだ。
「もし僕たちが皆いいプレーをしていれば、Jリーグだけでなく韓国のKリーグやオーストラリアからもスカウティングされて、海外に行くチャンスもあると思います」
日本でプレーに対する意識が変わり、得点力が劇的に向上したことに象徴されるように、自分が大きく成長できたからこそチームメイトたちにも海外挑戦を促す。先頭に立ってチャンスを切り拓いていくための役割も、チャナティップが自覚する母国への貢献の1つなのかもしれない。
タイ代表はひとまず次のラウンドへの挑戦権を手にした。チャナティップは試合終了の瞬間、顔を手で覆い、ひざまづいて祈りを捧げた。ひとまず重圧から解放されて、安堵感もあったのだろうか。そのあと取材エリアの近くだったロッカールームからは歓喜の叫び声が聞こえた。
「インドは素晴らしいプレーをして、あの試合のタイは非常に悪かった。そのあと監督が代わって、チームは1つのスピリットのもとで団結することができました」
初戦の敗戦を糧にして、大きな困難を一丸となって乗り越えた。その中心にはチャナティップがいた。決勝トーナメントに進めば日本代表との対戦の可能性もあるが、それについて問われると、“Future, maybe”と普段通りの太陽のような笑顔を見せた。
果たして日本と相見える機会はやってくるのか。決勝トーナメント1回戦はグループCの2位チームとの対戦。中国や韓国が相手となり、決して簡単な試合にはならないだろう。だがタイにチャンスがないわけではない。チャナティップとタイ代表はアジアの大きな壁を乗り越えられるか。これからの一歩一歩は、それすなわちタイサッカーの新たな歴史に刻まれていく。
(取材・文:舩木渉【UAE】)
【了】