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歯向かえば命はない。ソチ五輪という名の集金マシンと私腹を肥やす人々【億万長者クラブの真実(終)】

text by ジェームズ・モンタギュー photo by Getty Images

国外逃亡も意味をなさず。プーチンの魔の手

 ネムツォフによれば、競争入札を経ずに直接発注された契約は21件もある。アメリカの財務省の報告によれば、これは大会の予算全体の15%、約70億ドルに相当する。

 その後もネムツォフはロシア国内で野党の一本化を訴え続けたし、後にウクライナで民主革命が起こった際には、ユーシチェンコ大統領の経済顧問にも抜擢されている。しかし彼は55歳で不慮の死を遂げる。2015年2月、モスクワ市内、クレムリンの目と鼻の先で何者かに射殺されたのだった。アシュルコフは語る。

「ロシアで野党側に回ろうとするのは危険な賭けだ。そのことはみんなわかっている。罪をでっち上げられて刑務所に投獄されたり、自分のように国外に追い出されたりする。例の一件があった後は、国外にいても安全だとは思えなくなってしまった」

 彼が言及したのは、アレクサンダー・リトヴィネンコの殺害事件だった。

 もともとリトヴィネンコはFSB(旧KGB)の元職員で、ベレゾフスキーの同志でもあった。

 彼はイギリスに亡命した後にMI5に雇われ、プーチンを批判し続けるようになる。ジャーナリストで人権活動家だったアンナ・ポリトコフスカヤが暗殺された事件に関しては、プーチンが殺害を命じたとはっきり断じている。

 だが、その主張を行った数週間後、リトヴィネンコは帰らぬ人となる。紅茶に放射性元素のポロニウムを盛られ、毒殺されたのだった。イギリス側は、実行犯はFSB(旧KGB)で、プーチンの指令で動いた可能性が最も高いと結論付けている。アシュルコフは語る。

「(海外に亡命するのは)モスクワにいるよりは安全だと思う。でも同時にこうも思うんだ。その気になれば、相手はロンドンでも事を起こせる、とね。それは間違いない」

(文:ジェームズ・モンタギュー/訳=田邊雅之)

▽ジェームズ・モンタギュー
英国エセックス州出身のジャーナリスト。スポーツ、政治、そして文化を専門分野とし、ニューヨーク・タイムズ、ガーディアン、オブザーバー、GQ、エスクワイヤ、CNN、BBCなどの各媒体で、精力的に執筆・解説活動を展開。2008年には、中東諸国のサッカーと社会を描いた処女作「When Friday Comes:Football, War and Revolution in the Middle East」を出版。2014年には、ワールドカップ・ブラジル大会出場を目指す、世界6大陸の様々な代表チーム、しかも弱小チームの奮闘ぶりを描いた「Thirty One Nil:On the Road With Football’s Outsiders, a World Cup Odyssey」を出版。2015年のイギリス最優秀スポーツ書籍賞に輝いている

▽田邊 雅之
1965年、新潟県生まれ。ライター、翻訳家、編集者。『Number』をはじめとして、学生時代から様々な雑誌や書籍の分野でフリーランスとして活動を始める。2000年からNumber編集部に所属。ワールドカップ南ア大会を最後に再びフリーランスとして独立(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです

【了】

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