史上最大規模の民事訴訟は失笑を買う判決に
この一件が示唆するものは明らかだ。カレン・ダウィシャは彼女の著書、『プーチンのクレプトクラシー ロシアの持ち主は誰か?』で述べている。
「(ロシアで)新しい『ルール』が適用された。それをベレゾフスキーに伝えるために使わされたメッセンジャーが、アブラモヴィッチだったという点にこそ意味がある」
一方、この民事訴訟は、アブラモヴィッチが関わってきた不透明な取引に、初めてスポットライトを当てる結果となった。審理の過程では、1992年の事件に関する逮捕状も資料として提出されている。アブラモヴィッチが、ウフタからカリーニングラードに向かう燃料をくすねようとして、文書を偽造したとされる一件にまつわるものだ。
アブラモヴィッチ本人は、嫌疑を一貫して否定していた。ミッジリーとハッチンズが記した伝記では、彼の腹心で高い地位にあるとされる人物が匿名で登場し、「そんなことは絶対に起きていない」と証言したともされる。
だが事実は異なっている。『フィナンシャル・タイムズ』紙は、ベレゾフスキー側の弁護人が、しっかり証拠を揃えてきたと報じている。
「彼は、1992年にモスクワの検察官が出した命令書を提出してきた。アブラモヴィッチは当時、石油製品のトレーダーをしていたが、ロシア北部のウフタ製油所から、貨車55台分のディーゼル燃料が行方不明になった件で手配されている。彼は、製油所の職員と結託して文書を捏造した件で告訴された。だが行方不明になっていたディーゼル燃料が回収されたということで、それ以上の措置は取られなかった」
最終的にこの裁判では、ベレゾフスキーの証言は信憑性に欠けると判断される。
ORTの一件に関しては、周到に準備されたアブラモヴィッチ側の証言が採用され、プーチンが売却を強制した証拠はないと認定された。判決が読み渡された瞬間、裁判を傍聴していたロシアのジャーナリストたちは、裁判所の中で大声を上げて笑っている。