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買わねば死んでいた? アブラモヴィッチ、チェルシー買収の真相。ロシア政治が絡む狂気の裏側【億万長者クラブの真実(4)】

text by ジェームズ・モンタギュー photo by Getty Images

巧みに生き永らえたアブラモヴィッチ

 2005年、アブラモヴィッチは自らの身を守るために、さらなる手も打っている。それがシブネフチの売却だった。これは二つの意味で理に適っていた。

 プーチンに歯向かったオリガルヒたちは資産を没収されたり、市場価格には到底見合わない額で企業を売却せざるを得なかった。

 だがアブラモヴィッチは、シブネフチ(編注:所有していた民営の大手石油会社)を131億ドルで売り抜けている。これは正当な評価額だったし、資産のほとんどを「流動化」するーロシア国内に厄介な企業や工場などを構え続ける代わりに、現金に換える意味合いも持っていた。

 そしてもちろん、シブネフチの売却はプーチンを喜ばせた。シブネフチを吸収したことによって、国営企業のガスプロムはその影響力をさらに揺るぎないものにしたからだ。

 旧西側諸国やロシアの近隣国は、ガスプロムが供給する天然ガスに依存せざるを得ないし、天然資源の価格も右肩上がりで上昇してきた。結果、プーチンは政治と経済の両面において、さらに強大な権力を手にすることとなった。

「ロシアでは、エネルギー資源を牛耳っている人間こそが、真の意味で政治と経済の黒幕になる」

 アナリストのピーター・ラベルは、かつてロシアに存在した国営の通信社『RIAノボースチ』にこのような一文を寄稿している。

 アブラモヴィッチは、その典型的な一人だった。しかも彼はロシア国内の風向きが変わると巧みにプーチン側に鞍替えし、何とか生き永らえたのである。

(文:ジェームズ・モンタギュー/訳=田邊雅之)

▽ジェームズ ・モンタギュー
英国エセックス州出身のジャーナリスト。スポーツ、政治、そして文化を専門分野とし、ニューヨーク・タイムズ、ガーディアン、オブザーバー、GQ、エスクワイヤ、CNN、BBCなどの各媒体で、精力的に執筆・解説活動を展開。2008年には、中東諸国のサッカーと社会を描いた処女作「When Friday Comes:Football, War and Revolution in the Middle East」を出版。2014年には、ワールドカップ・ブラジル大会出場を目指す、世界6大陸の様々な代表チーム、しかも弱小チームの奮闘ぶりを描いた「Thirty One Nil:On the Road With Football’s Outsiders, a World Cup Odyssey」を出版。2015年のイギリス最優秀スポーツ書籍賞に輝いている

▽田邊 雅之
1965年、新潟県生まれ。ライター、翻訳家、編集者。『Number』をはじめとして、学生時代から様々な雑誌や書籍の分野でフリーランスとして活動を始める。2000年からNumber編集部に所属。ワールドカップ南ア大会を最後に再びフリーランスとして独立。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

【了】

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