習近平体制の終焉と同時に終わる?
興味深いのは、アトレティコ・マドリーの共同オーナー、ワンダ・グループの会長が行った提案だ。彼はビッグクラブ同士の対戦がさらに増え、逆にマイナーなクラブが出場する機会が減るような形での、新たなリーグの設立を提案している。これはUEFAチャンピオンズリーグを換骨奪胎しようとする試みに他ならないし、アメリカ人オーナーの発想にも非常に似ている。
新リーグの発足というアイディアは歓迎されなかったが、チャイナマネーとアメリカ資本は、ヨーロッパサッカーの構造を不可逆的に作り替えていく可能性もある。
ただし、そこには一つの条件がつく。少なくとも中国が及ぼす影響に関しては、金に糸目をつけない投資が続くことが前提となる。中国においては、スポーツそのものが紆余曲折を経てきた。
「現在のサッカーブームは、政治的な現象にすぎない」
『バンブー・ゴールポスト』の著者、ローワン・シモンズは語る。
「習近平体制が任期の終わりに近づき、新たな国家主席がサッカーファンではないことがわかったとする。その途端に金の流れは止まり、後には何も残らなくなるだろうね」
チャイナマネーと中国のサッカーは、これからどうなっていくのだろうか。
そんなことを考えるうちに、いつしか時間が経っていた。
ふと気が付けば、ハーグに夜の帳が降りている。私がいたカフェも閉まり始めた。
王輝とのインタビューは結局、実現しなかった。
(文:ジェームズ・モンタギュー/訳=田邊雅之)
▽ジェームズ・モンタギュー
英国エセックス州出身のジャーナリスト。スポーツ、政治、そして文化を専門分野とし、ニューヨーク・タイムズ、ガーディアン、オブザーバー、GQ、エスクワイヤ、CNN、BBCなどの各媒体で、精力的に執筆・解説活動を展開。2008年には、中東諸国のサッカーと社会を描いた処女作「When Friday Comes:Football, War and Revolution in the Middle East」を出版。2014年には、ワールドカップ・ブラジル大会出場を目指す、世界6大陸の様々な代表チーム、しかも弱小チームの奮闘ぶりを描いた「Thirty One Nil:On the Road With Football’s Outsiders, a World Cup Odyssey」を出版。2015年のイギリス最優秀スポーツ書籍賞に輝いている
▽田邊 雅之
1965年、新潟県生まれ。ライター、翻訳家、編集者。『Number』をはじめとして、学生時代から様々な雑誌や書籍の分野でフリーランスとして活動を始める。2000年からNumber編集部に所属。ワールドカップ南ア大会を最後に再びフリーランスとして独立(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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