笑い物の種にもなっていたフィテッセ
春先、ADOデン・ハーグの広報が電話をかけてきた。
1年のうちで最も気持ちのいい時期に会えればと思って取材を申請していたが、王輝自身がインタビューを受けたがっているのだという。
「彼がここに来ているってことは、誰にも言わないでくださいね」
クラブの広報は、オランダのメディアに財務状況を詮索されるのを嫌がっていた。またファンが王を発見し、再びホテルに押しかけたりする事態になるのも心配していた。
「ハーグ市内で待っていてください。後で電話しますから」
連絡が来るまで、街の中心部にあるカフェで待っていることにした。
デン・ハーグは、次のシーズンも中国人のオーナーがそのまま所有する形になる。
市内で壁紙店を経営するサポーターは王輝もチーム側も批判していたが、オランダリーグの1部で競い合えるようになるためには、外国資本の参入が必要であることも認めていた。
ちなみに彼はデン・ハーグだけでなく、スウォンジーの株式を所有していた人物だ。それだけに言葉には説得力がある。
いずれにしてもデン・ハーグは、「アイデンティティーの模索」という作業を、来年も強いられることになる。イングランドのサッカー界は、外国人のオーナーが参入し、クラブを買収する状況に昔から慣れている。オランダの場合、外国人がオーナーを務めているクラブは、かつてはフィテッセしかなかったからだ。
フィテッセは、フレーザーが新たに監督に就任したクラブだが、このクラブはまずジョージア人によって、次にはロマン・アブラモヴィチと関係のある、ロシアの実業家によって運営されていた。結果的にチェルシーに選手を供給する役割を担うことになり、物議を醸していた。
事実、フィテッセでは、配下の選手たちが1シーズン在籍しただけで、移籍していくようなケースが多かった。あまりに頻繁に選手が入れ替わるために、オランダのサッカー界では物笑いの種にもなっていたほどだ。観客数も当然のように減っていく。