サッカーは「愛国心と集団の精神を促進する」ために用いられるべき
「中国共産党の第18回全国代表大会で、中央委員に就任して以来、総書記は中国を偉大なスポーツ国家にすべく、サッカーの発展を議題に掲げてきた」
報告書の冒頭にはこのようにある。
改革案の多くは極めて具体的な内容だが、全体的には習近平の熱意が感じられる、扇情的な内容になっている。
まず報告書は、サッカー用のピッチを大量に敷設するように勧告。さらに中国サッカー協会の政治的な影響力を排除せよとも説いている(これはFIFAのルールでも禁止されている)。
さらに報告書は、全国にアカデミーを設立して、優れたチームや選手を育てるノウハウを強豪国から吸収することを推奨しつつ、サッカーは「愛国心と集団の精神を促進する」ために用いられるべきだとも主張している。
「あらゆる内容が政府によって管轄されているだけでなく、スポーツに関する法令の1番上に明記されている。これは信じられない変化だ」
中国におけるサッカーの歴史を綴った本、『バンブー・ゴールポスト』を記したローワン・シモンズは語る。彼は中国に30年間暮らし、その盛衰を目の当たりにしてきた。
毛沢東による文化大革命の際、サッカーはほぼ完全に破壊され、灰燼に帰している。当時は10人以上の人間が集まることそのものが禁止されていた。
やがて2002年のワールドカップの後にはサッカーブームが訪れるが、これも本当の夜明けにはつながらなかった。約10年後、中国サッカー界で発生したのは、八百長疑惑によるチーム関係者や選手、審判の一斉検挙、そして国内リーグの事実上の崩壊という事件だった。
(文:ジェームズ・モンタギュー/訳=田邊雅之)
▽ジェームズ・モンタギュー
英国エセックス州出身のジャーナリスト。スポーツ、政治、そして文化を専門分野とし、ニューヨーク・タイムズ、ガーディアン、オブザーバー、GQ、エスクワイヤ、CNN、BBCなどの各媒体で、精力的に執筆・解説活動を展開。2008年には、中東諸国のサッカーと社会を描いた処女作「When Friday Comes:Football, War and Revolution in the Middle East」を出版。2014年には、ワールドカップ・ブラジル大会出場を目指す、世界6大陸の様々な代表チーム、しかも弱小チームの奮闘ぶりを描いた「Thirty One Nil:On the Road With Football’s Outsiders, a World Cup Odyssey」を出版。2015年のイギリス最優秀スポーツ書籍賞に輝いている
▽田邊 雅之
1965年、新潟県生まれ。ライター、翻訳家、編集者。『Number』をはじめとして、学生時代から様々な雑誌や書籍の分野でフリーランスとして活動を始める。2000年からNumber編集部に所属。ワールドカップ南ア大会を最後に再びフリーランスとして独立(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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