日本に味方したいくつかの条件
17分、ファン・ドミンゲスに先制ゴールを許すが、前半は1失点に抑えて折り返す。巨大な存在だったはずのアルゼンチンも、実際に戦ってみれば「それほどかけ離れた相手ではない」(鈴木)という感触が、チーム内に広がり始めていた。
そして後半に入り54分、八重樫が絶妙なスルーパスで、杉山を走らせて同点弾を導く。しかしその8分後には再びドミンゲスがゴール。この時クラマーは弱気に「もうダメだ」と天を仰いだ。
だがいくつかの条件が日本に味方をした。アルゼンチンは中1日の試合で疲労を残し、雨でぬかるんだピッチが、さらに負荷をかける。これで持ち前のテクニックの威力が半減したのは想像に難くない。対照的にベストコンディションで臨めた日本は、消耗戦で運動量が生きた。
残り9分、釜本が初めて左サイドに流れた。そのまま「大会中で唯一記憶に残る会心のクロス」を送る。川淵三郎がダイビングヘッドでネットを揺らした。
さらに1分後、杉山のクロスを、川淵が体ごと飛び込みボールを止め、こぼれたところに小城が走り込み決勝ゴールを奪った。
このシーンを小城はシニカルに回想する。
「もうやけくそみたいに前線に上がっていきました。サッカーが下手で良かったな、と思いましたよ。インサイドで合わせたのに空振り。でも取り替え式のポイントに当たってバウンドしました。これでGKも反応できなかった」
鈴木には、逆転に成功した瞬間のベンチの光景が焼きついている。
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