クラマーが見出した勝機
10月14日、日本が強豪アルゼンチンと対戦する昼下がりの駒沢陸上競技場も満員になった。もっともそれは必ずしもサッカーファンで埋まったわけではなく「スタンドを見上げれば、観戦そっちのけで走り回る子供たちがたくさんいる」(片山)ような状況だった。
グループDでは、既にその2日前に、アルゼンチンとガーナが対戦し引き分けていた。
「確かにアルゼンチンのテクニックは素晴らしい。しかしスピードはそれほどでもない。こちらのペースに持ち込めば勝機は見えてくるかもしれない」
そう判断したクラマーは、アルゼンチンのエース、ミゲール・アンヘル・モーリーを小城得達(おぎありたつ)にマークさせて、堅守からの速攻を狙う戦略を採る。片山は厳しい口調で、セーフティー・ファーストを強調された。
「おまえがボール扱いを得意としていてドリブルが好きなのは知っている。でもオレは嫌いだ、今日は見たくない!」
アルゼンチン戦のピッチに立った日本代表のスタメン平均年齢は23.7歳だった。土壇場で代表に滑り込んできた釜本邦茂が20歳、故障した宮本征勝の代わりに抜擢された山口芳忠は、まだ19歳だった。
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