リスクを孕む怒涛のハイプレス
従来の記録は2016シーズンの開幕戦における1万112人。このときは4年ぶりとなるJ2復帰戦と、元日本代表でブラジルワールドカップにも出場した柿谷曜一朗を擁するセレッソ大阪が相手とあって、大々的なキャンペーンを展開した末に実現した光景だった。
しかし、今シーズンの最終節は違う。J1昇格がかなわない状況でも前を向いて戦い続け、他力ながらも優勝をもぎ取れる順位を手繰り寄せたからこそ、期待で胸を膨らませながらファン・サポーターが集結した。そして、ヴェルディを相手にした90分間には、今シーズンのゼルビアが凝縮されていた。
全体をコンパクトな陣形に保ちながら、前線から激しくプレッシングをかけ続ける。迫力と執念が前面に押し出された、球際における激しい攻防との相乗効果もあって、相馬監督の目にはテクニックに長けるヴェルディが「特に前半はボールを動かすところで怖がっていた」と映っていた。
もっとも、怒涛のハイプレスは、自陣に広がるスペースを突かれる危険性と表裏一体になる。実際にヴェルディ戦の76分には、一本の縦パスから最終ラインの裏へ抜け出されたFW林陵平に先制ゴールを決められた。シーズンを通しても、総失点44は最少の松本より10多い6位タイだった。
「正直言って、すごくリスクがあるサッカーをやっているので」
1年だけ指揮を執ったJFL時代の2010シーズン後に古巣・川崎フロンターレ監督、モンテディオ山形ヘッドコーチをへて、2014シーズンから監督として再登板。トータルで6年間もの時間をかけてゼルビア独自の戦い方を作り上げてきた相馬監督は、胸を張って「リスク」という言葉を口にする。
「入れ替わられる怖さがあるなかで、それでも選手たち、特に後ろの選手たちは勇気をもって、自分たちからボールを奪いにいく姿勢を示し続けてくれた。それが(上位争いを演じ続けた)大きな要因じゃないかな、と思っています」