イングランドの特殊性は中島に不向き?
こうした状況を踏まえると、中島には適した環境かもしれない。パス主体のスタイルなのだから、ボールが2~3列目の頭上を越えていくケースは稀だ。サント監督、R・ネベス、ルイ・パトリシオ、ジョアン・モウチーニョといったポルトガル人を数多く擁しているため、言語としてもアドバンテージがある。しかもプレミアリーグから降格する危険度は極めて低いのだから、中島にも少なからずチャンスは与えられるはずだ。
ただ、現状ではFWの六番手に過ぎない。得点源のR・ヒメネス、近未来のスーパースター候補生のひとりであるディオゴ・ジョッタ、堅実性と継続性が光るエウデル・コスタ、ドリブル突破だけならワールドクラスのアダマ・トラオレ、高精度のクロスを誇るイバン・カバレイロなど、タレントがズラリとそろっている。彼らとのし烈なポジション争いに勝たないかぎり、ベンチ入りすら難しい状況だ。
しかもウルブスが欲しているのはFWや中盤ではなく、絶対数が不足しているDFである。ウルブスが日本人を狙うのであれば、サウサンプトンの吉田麻也のほうが現実的だ。
さらにプレミアリーグのプレー強度も考慮しなくてはならない。かつてアーセナルで活躍したロベール・ピレスは、「激しいボディコンタクトに耐えうる肉体を創るまで3年もかかった」と語っていた。マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ、リバプールのユルゲン・クロップ監督も舌を巻いた。
「他のリーグでは2~3日、長くても1週間あれば肉体的な消耗は回復できたが、プレミアリーグでは1か月経っても疲れを引きずる選手がいる」
この特殊性は、167センチ・62キロの中島に大きなハンデといえるだろう。リバプールのシェルダン・シャキリも169センチと小柄だが、72キロと頑健な肉体を誇り、しかもプレミアリーグでは3年半もプレーしている。
アーセナルのルーカス・トレイラも168センチ・63キロとサイズには恵まれていないものの、体幹が人一倍強く、ウルグアイ人の選手は幼少期から激しいボディコンタクトとは慣れ親しんできた。中島とは育ってきた環境が違う。やはり、プレミアリーグを選択すべきではない。
本稿執筆時点で、サンパイオ会長は口をつぐんでいる。彼が描いたウルブスとのシナリオは現実に至らず、他チームから色よいオファーも届いていないのだろう。ここは中島も周囲に踊らされず、必ず訪れるステップアップのチャンスを待つべきだ。
忍の一字は衆妙の門──。輝かしい成功をつかむために、いまは耐え忍んだ方がいい。
(文:粕谷秀樹)
【了】