ゾーンディフェンスの強みと弱み
一般的にコーナーキックの際のゾーンディフェンスには組織的な対応でペナルティエリア内を満遍なくカバーできること、空中戦に強い選手を最も危険な場所に配置できることなどのメリットがある。その反面、プレー判断が人ではなく全てボール基準になり、各選手が自分の担当ゾーンを外れないよう設計されていることで特定の場所で数的不利を作られやすい。あるいは静止状態からプレーが始まることで、走り込んでからジャンプする相手に空中戦で後手を踏みやすいといったデメリットもある。
ゾーンを採用している仙台のコーナーキック守備に対して、明確な対抗策を用意したチームもあった。例えばサンフレッチェ広島は、圧倒的なフィジカルを誇るパトリックがファーサイドのかなり遠い位置から全力で走り込み、打点の高いヘディングで守備の上からゴールを狙う形を何度も使っていた。
今年10月20日のサガン鳥栖戦では、浦和がスカウティングで参考にしたであろうパターンも見られた。鳥栖はコーナーキック時に早いタイミングで仙台の守備陣形の中に多くの選手を入れておき、スクランブル状態でクリアさせる。そのこぼれ球を、後ろでフリーになって待っていた高橋義希がハーフボレーで鮮やかにゴールへ突き刺した。
そして天皇杯決勝。浦和はまずショートコーナーで柏木陽介から武藤雄樹にボールを渡し、柏木は動き直して武藤からのリターンをもらう。そしてペナルティアーク付近で待機していた長澤和輝へパスを出した。
柏木がコーナーキックを蹴る時点でゾーンディフェンスを敷いている仙台は全てのフィールドプレーヤーをペナルティエリア内に入れているため、ショートコーナーへの対応が遅れ、武藤とのパス交換にニアサイドにいた奥埜博亮と中野嘉大の2人がつられる。これは「ショートは練習していたし、相手を何人か引っ張ろうかなと思った」というキッカーの狙い通り。
また、フリーの長澤にボールが出たことで、3人目の椎橋慧也がペナルティエリアから引き出された。柏木は「ショートをしたことでセカンド(こぼれ球狙い)の選手がこっちに引っ張られた」と、3人目が外に出てきたことも認識していた。この時点で浦和の選手はゴール前に興梠慎三、阿部勇樹、橋岡大樹、槙野智章、岩波拓也の5人、仙台の選手は7人+GKとなる。