チームを救った小川航基
現実に抗い続けた男が、チームの未来を切り拓いた。
2018 J1参入プレーオフ決定戦。J1・16位のジュビロ磐田は、J2・6位の東京ヴェルディをヤマハスタジアムに迎え、2-0と勝利している。日本代表FW川又堅碁のコンディションが万全ではない中、最前線に据えられた小川航基は自身の持っている全てをピッチで表現した。
明治安田生命J1リーグ最終節・川崎フロンターレでは、最後の最後で逆転負けを喫した。勝利が手からこぼれ落ちるだけなら、まだいい。あの日、磐田が失ったものはJ1自動残留の権利だった。プレーオフまで1週間、負ければ来季はJ2という崖っぷちに追い込まれたサックスブルーは、各々に気持ちを整えた。全員が前を向くまでに多少の“時差”はあったが、東京Vを分析し、練習に励む中でチームのメンタル的な状態は上がっていった。
「自分がスタメンと分かった時はすごく心も、『オレがやってやる』という気持ちに切り替わりました」
チーム得点王の川又の状態が思わしくなく、試合2日前の紅白戦で小川航が主力組に入った。21歳のストライカーは自身の中から沸き上がるものを感じていた。
試合開始からJ1残留を告げるホイッスルが鳴るまで、とにかく走り続けた。前からボールを追い、空中戦で身体を張った。東京Vはビルドアップを引っ掛けられ、そこからカウンターを浴びる――そんな映像も見てきたから、プレスを緩めるつもりはなかった。
そして、小川航は自ら試合を動かすことになる。
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