簡単そうでも難しいプレー
「何もわからない状態でのスタートだった」(飯倉)
こうプレーしなさいという指示どおりやる、いわば形から入る。形から入ってその意味を知り、やがて形から出る。能の極意のような成長過程を踏む。
「うまくいくと対策をされる、そうするとできなくなる。その繰り返し」(飯倉)
飯倉の言う対策をいかに乗り越えていくか。最終節の相手、セレッソ大阪は横浜FMの自陣深くからのパスワークに厳しいプレスを仕掛けていた。開幕戦では面食らっていたが、すでに横浜FMのやり方は承知している。飯倉は「自分のところで剥がす」ことでプレスを外そうと試みる一方で、長いパスも使っていた。
「うまくいかないときのオプションです。今年は頑なにつなぐことに終始した感じでしたが、来年はもっとロングボールを増やすのもありかなと思っています」(飯倉)
飯倉が「オプション」と話しているのは、言い換えればじつは「セオリー」だ。
相手がマンマーク気味にハイプレスを仕掛けてくるなら、相手の最終ラインがFWと同数になることが多い。それならば、ショートパスで組み立てるよりも一発のロングパスを前線に届けて1対1を制すれば決定機を作れる。ショートパスのビルドアップが表なら、ロングパス一発で急所をつくのは裏。裏もあるから表が生きてくる。
ただ、横浜FMはまだ表芸のほうが少々不安定な感は否めない。前半41分に飯倉からペナルティーエリアすぐ外にいた畠中慎之輔につなぐまでは良かったのだが、畠中がフリーのドゥシャンに下げたダイレクトパスがずれてタッチラインを割ってしまった。
GKがビルドアップに参加することで必ず数的優位が生まれる。畠中を経由してフリーのドゥシャンに渡す経路は定石どおり。15メートルのパスをダイレクトのインサイドキックで10メートル下げる、プロなら何の問題もなさそうなプレーなのだが、現実には失敗している。しかし、簡単そうでも難しいプレーというのはある。