スタジアムを包んだ感情の爆発
後半アディショナルタイムも目安の時間まで2分を切って、横浜FCがJ1昇格への次なる扉に手をかけようとしていた。
スタンドでスカウティングにあたっていた東京ヴェルディのスタッフたちも、試合終了に合わせて引き上げ始める。その時だった。メインスタンドからコンコースへの階段を降りようとしていた、スペイン人フィジカルコーチのトニ・ヒル・プエルトが、両手を突き上げて“Vamos!”と吠える。
再びピッチに視線を移すと、東京Vの選手たちが緑色で埋め尽くされたゴール裏スタンドへなだれ込んでいくのが見えた。あとで映像を確認するまで誰か判別できなかったが、観客の中に飛び込んだ選手もいた。
90+6分。公式記録にはそう記されている。ドウグラス・ヴィエイラが東京Vに、奇跡的な決勝ゴールをもたらした。スタジアムでは喜び、驚き、感動、悲しみ、落胆…あらゆる感情が交差し、大爆発を起こしていた。
横浜FCのキャプテンを務めるMF佐藤謙介は試合後、「負け方が斬新すぎてまだ整理しきれていない」とこぼし、思わず苦笑いするしかなかった。J1参入プレーオフでは、レギュラーシーズンで上位だったチームが引き分けでも勝ち上がれる決まりになっており、横浜FCはあと2分守り切れば、ジュビロ磐田が待つJ1・J2入れ替え戦に進むことができたのである。
とはいえ、最初から引き分け狙いではなかった。「うちは勝ちにいくと言っていたので、その姿勢の結果」と佐藤が話したように、横浜FCは今季リーグ戦で1分1敗だったことや、東京Vが直近の大宮アルディージャ戦で見せた戦いを踏まえて勝つために万全の準備を整えていた。
システムは3-4-1-2で、2トップにはエースFWのイバと本職はMFの野村直輝を起用。負傷明けのレアンドロ・ドミンゲスを外し、守備での強度を意識した布陣を敷いた。これは功を奏し、前線からの激しいプレッシャーで東京V自慢のパスワークを幾分か封じることに成功する。