湘南で呼び覚ましたかつての感覚
ならば、指揮官は梅崎へどのようなアプローチを施してきたのか。試合や日々の練習で、それこそ無数の言葉をかけられてきた31歳のベテランは「ひとつでは片付けられない」と苦笑いを浮かべながら、ベルマーレでの約10ヶ月間をこんな言葉で振り返っている。
「人間の深いところまで、曺さんは日々向き合わせてくれるというか。たとえばゲームキャプテンを務めさせてもらうことが多くなってきたなかで、チームのあり方を考えることがすごく多くなってきた。どのようにすればチームがよくなるのか、という考えることが個人にもつながる、と感じるようになった点で考え方が大きく変化したと思っています。昔の自分との戦いというか、アグレッシブだった自分をもう一度呼び覚まし、奮い立たせてもくれた。いろいろなものが集約されている時間でした」
右太ももの裏を痛めていたことと、湘南に順応する時間を要したことで、前半戦の梅崎は途中出場が続いた。先発に定着し始めたのはロシアワールドカップからの中断明け。古巣レッズと対戦した2試合を比較すれば、梅崎が遂げた変化がはっきりとわかる。
最初は4月28日の明治安田生命J1リーグ第11節。慣れ親しんだ埼玉スタジアムのピッチに投入されたのは、1-0で迎えた87分だった。翻ってShonan BMWスタジアム平塚にレッズを迎えた今月24日の同33節では先発に名前を連ね、20分には大仕事を成し遂げてみせた。
自陣の左タッチライン際で、MF杉岡大暉が前方へ縦パスを送る。ハーフウェーラインの手前で、FW山崎凌吾がDF岩波拓也に空中で競り勝ち、頭でボールを前方へ流す。山崎が競り勝つと信じていた梅崎が、スピードに乗ったまま頭でボールを前へ弾き、一気に縦へ抜け出す。
追走してくる森脇良太、茂木力也の両DFの気配を感じながら、シュートを打とうとした刹那に判断を変えた。足の裏でボールを転がしならコースを右に取り、ペナルティエリア内へ侵入した直後に右足を振り抜き、つま先で放った一撃で大分時代からの盟友で、いつかはゴールを奪いたいと望んできた元日本代表GK西川周作の牙城に風穴を開けた。
「相手のタイミングを上手く外せたし、アイディア勝ちかなと思っています。もうひとつ前でもシュートを打てましたけど、もっと近づけるかなと急にアイディアが浮かんだので。もっともっと成長したい、という思いを抱いてこのチームに来たので、その意味でもレッズ相手に成長した自分を見せたかった。それ(成長の跡)をベルマーレの梅崎司として、仲間たちと一緒に体現できてよかったです」