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Jリーグ 6年前

東京Vはプラン“崩壊”でも勝つ。10人で激闘を制したロティーナ式の真価、11年ぶりのJ1昇格へ

text by 舩木渉 photo by Getty Images

「パルティード・ア・パルティードを続ける」(ロティーナ監督)

ミゲル・アンヘル・ロティーナ
東京ヴェルディのロティーナ監督(左)は試合が終わると井上潮音(右)に後ろから抱きついて喜び爆発【写真:Getty Images】

 李栄直は終盤10分間の大宮の猛攻を、そのように振り返った。確かにシモヴィッチめがけたロングボールが増えたが、ヴェルディの選手たちはスウェーデン人FWが関わった「次のボール」にも必死に食らいつき、危険なエリアの外に蹴り出していった。

 後半アディショナルタイムに突入する直前には若狭がゴールライン上で相手のシュートを掻き出すファインプレーも見せた。シモヴィッチのゴールポストを叩くシュートもあったが、最終的には10人のヴェルディが耐え切って、試合終了の笛とともに拳を天に突き上げた。

 チームの全員がピッチ上でそれぞれの役割を理解し、交代でシステムや組み合わせが変わっても、やるべきことを遂行できる。ロティーナ監督がヴェルディで2年間かけて作り上げてきたスタイルを、選手たちはプレーオフの負ければ終わりの戦いの中で存分に披露した。

「こういう個でくるチームにとって、自分たちは優位に立てるというのを今日改めて証明できたから、自信にはなったと思います」と李栄直は語った。ロティーナ監督は試合後に選手たちを次々に抱き寄せ、井上には後ろから跳ぶように抱きついて奮闘を称えた。その喜びようが、10人でも自分たちの目指すサッカーを表現して勝てたことへの手応えを示している。

 ロティーナ監督は激戦を制し、改めてチームに対しての自信を口にした。

「我々はシーズン中もずっと『パルティード・ア・パルティード(「試合から試合へ」、毎試合に全力を尽くすという意味のスペイン語。ディエゴ・シメオネ監督が用いて広まった)』と1つひとつ戦ってきて、これは変わらず続けていく。

このプレーオフでの3試合、アウェイで勝たなければいけない難しい戦いが待っている。それが難しいのは理解しているし、自分たちがやっていることに自信を持って戦っていればいい。(中略)相手によって特に我々のやり方を劇的に変えることはしない。シーズン中にやってきたことを継続して、次の試合に向けて準備していくことが重要だ」

 林も指揮官と思いを同じくしていた。

「この1勝というのはすごく大きい。まだJ1に行くためには2連勝が必要なので難しいことはわかっていますし、本当に1つひとつの試合が一番大事になってくる。また次の横浜FC戦に向けて全員で、ロティーナとイバンのやりたいサッカーを続けていきたいと思います」

 スペイン人指揮官とその腹心が仕込んだサッカーは、ヴェルディに確実に根づきつつある。ひとまずはこの2年間の集大成を示す場が、このJ1参入プレーオフ。欧州の最新理論をふんだんに散りばめたスタイルのもと、厳しい戦いを乗り越えて団結力を増したチームがどこまで突き進めるか楽しみに見届けたい。

(取材・文:舩木渉)

【了】

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