原点はアヤックスとPSVのCL参戦にあり
こうしたクーマン監督の戦術は、決して彼独自のものではなく、今季のアヤックスでも採用されているものだ。オランダ代表に於けるワイナルドゥムの役割は、アヤックスのMFドニー・ファン・デ・ベークと似通ったものだ。メンフィスの“偽のストライカー”は、CLの舞台で幾度かドゥシャン・タディッチが成功させている。
こうして振り返ると、ネーションズリーグでのオランダの復活は、アヤックスのCLでの活躍とリンクしているのが見えてくる。今、アヤックスはCLグループリーグでバイエルン・ミュンヘンに次ぐ2位という健闘を見せている。
一方、PSVはCLで1分3敗と振るわないが、試合内容はオランダ国内で高く評価されている。今、サイドバックのデンゼル・ドゥムフリース、ウィンガーのベルフワインが組む右サイドはオランダ代表の大きな武器となっており、ドイツを3-0、フランスを2-0で下した原動力となった。
つまり、オランダ復活の影には、アヤックスとPSV両チームのCL(予選・プレーオフも含める)における高パフォーマンスがあるのだ。CL→オランダ代表→CL→オランダ代表→CLと代表とクラブが好循環で回っているのが、今のオランダのサッカーだ。
その最高傑作となったのが、11月16日のオランダ対フランス戦だった。この試合のオランダは攻守にエネルギッシュなプレーを90分間披露し、フランスを圧倒しきった。ボールをロストした後のオランダのプレッシングは、フランスのボールホルダーに幾重もの壁が立ちふさがるようだった。
フランス戦の消耗は激しく、3日後にはドイツ相手に開始20分で0-2のビハインドを背負ってしまった。その後も、ドイツに決定機を作られ続けたが、オランダは必死に耐え、85分のプロメスの反撃弾をきっかけにアディショナルタイムにパワープレーからセンターバックのフィルジル・ファン・ダイクが2-2とするゴールを決めた。この引き分けによって、オランダはネーションズリーグのグループリーグ首位勝ち抜けを決めたのだ。
「『最後に勝つのはドイツ』と言われるが、今日は最後に我々がゴールを奪った」とクーマン監督。その劇的な戦い方は、CLの舞台でアヤックスも披露している。もしかしたら今のオランダサッカー界には『ドイツのメンタリティ』が宿り始めているのかもしれない。
そして私はゲルゼンキルヘンのアウェイサポーター席のみならず、ドイツサポーター席のあるゴール裏、メインスタンド、バックスタンドに陣取り声を枯らしたサポーターを見ながら、「本当にオランダ代表は国民の信頼を取り戻したのだな」と感慨にふけるのだ。
(取材・文:中田徹)
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