短い言葉に込められた内田の思い
帰りのバスに乗り込む直前のひとコマ。内田は独特の口調で残るシーズンへの抱負を語りながら、こんな言葉も紡いでいる。
「どちらかと言うと、クラブワールドカップよりも天皇杯優勝の方がほしいかな」
アントラーズは15日の準々決勝から登場し、北中米カリブ海代表のグアダラハラ(メキシコ)を下せば、準決勝でヨーロッパ王者レアル・マドリー(スペイン)と激突する。日本で開催された2016年大会決勝の再現であり、延長戦の末に2-4で敗れた悔しさのリベンジを果たす舞台だと誰もが夢を描く。
もっとも、シャルケの一員として2年前のアントラーズの快進撃を応援していた内田は、ヨーロッパの舞台で長く戦ってきた経験から「みんなそう(レアル・マドリーとの再戦だと)言いますけどね」と、思わず苦笑いを浮かべた。
「ヨーロッパのクラブにすれば大変だし、シーズン中に(UAEで)試合をするのは可哀想だと思うよ。もちろん名誉なことだけど、モチベーションという意味では正直、各チームと(レアル・マドリーとでは)差があると思う。そのなかでもアジアを制し、日本を代表して臨む以上は勝ちたい。相手のモチベーションがどうこうというより、自分たちとしてはやっぱり勝ちたいよね」
ならば、内田がクラブワールドカップよりも天皇杯制覇を上に位置づけた理由はどこにあるのか。来シーズンのACLにはJ1を連覇した川崎フロンターレと天皇杯覇者が本戦から、J1の2位および3位のチームはプレーオフからそれぞれ参戦する。
アントラーズが描き直した青写真は2位もしくは3位に食い込んでJ1を終えたうえで、天皇杯を制して通算21個目のタイトルを手にすること。ただ、必然的に新チームの始動も早めなければいけないプレーオフを回避できることだけが、内田が天皇杯優勝を強く望む理由ではない。
「あと2つだし、日本でやるからね」
短い言葉に込められた内田の思いを確認した。「ファンやサポーターの目の前で、喜びを分かち合えるからですか」と。内田は笑顔で「そうそう」とうなずきながらバスに乗り込んだ。常勝軍団アントラーズを、そしてファンやサポーターを、心の底から愛し続ける内田の素顔が垣間見えた瞬間だった。
(取材・文:藤江直人)
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