山中の力を引き出した守護神の助言
ところが、ある時から山中のプレーがガラリと変わった。60分頃、槙野智章が味方との衝突で脳しんとうを起こして倒れ、吉田麻也と交代した前後のタイミングで、それまで隠れていた「マリノスの山中」が顔をのぞかせ始めたのである。
A代表デビューだった金髪の左サイドバックがピッチの中で役割を変化させていった要因を語るのは、GKの権田修一だ。
「相手がなかなか高い位置に残ることがなくて、自陣に残っていました。マリノスはJリーグの中でも少し特殊なチームで、対戦した時には彼が中気味に入るようなポジションを取っていた。サイドバックのリスク管理というと、後ろに下がるような感覚があるじゃないですか。でもこれだけ相手が下がっていて、前線に1人しか残っていないとか、1人も残っていない状況だったら、(日本の)サイドバックの選手が後ろに残っていたら3人残ってしまうから(余る)。
彼のようなオフェンスに特徴を持っている選手は、後ろに下がるんじゃなくて中に絞って下がるようにした方がいいんじゃないかと、ちょっとゲームの入りで見ていて。昨日の練習ではどちらかといえば戻ってくることを要求していたんですけど、今日は相手を見てみて、そこは下がるよりも彼や室屋選手の良さができるだけ高い位置で(出た方がいい)。
少し外に張って、中にボールを回収しにくるシーンが多かったので、スピードもありますし、セカンドボールのところは少し中にいて、逆に自分より外のボールにプレッシャーにいけるような状況にした方がいいかなと思ったので、そこのポジションの修正をちょっとしました」
権田はJ1前半戦でマリノスと対戦した際、「3節で当たっておいて本当に良かった」と話していた。「発展途上で、楽しみなチームだと思います。変な話、後半戦にもう1回当たるじゃないですか。その時に完成していたら相当な脅威になる」とも言い、もちろん特殊なポジションをとる山中の果たす役割の重要性も理解していたに違いない。
実は前半から徐々に普段の姿を見せていく予兆はあった。30分を過ぎた頃、キルギスにカウンターを食らいそうになった瞬間、山中が素早くペナルティエリア手前から展開しようとした相手選手に寄せて攻撃を遅らせ、味方が戻る時間を作った。まさしくマリノスで実践しているカウンターへのファーストディフェンスの役割を果たしたわけだ。