監督と選手が示した鹿島の力
「我々のチャンスはわずかだが、やれることを期待している」
朝に訪れた医者は、私の疾患そのものよりも、彼の愛するペルセポリスを観るために私がテヘランに訪れたことに関心がある様子でそう話していた
「そうなれば誰もが幸せになれる。今のイラン国民には、幸せになれる何かが必要だからね」
もちろん鹿島は、それを阻むために乗り込んできた。だがキックオフが近づくにつれて、スタジアムの生み出す力に耐えることが可能なのかどうかと本格的に疑いが感じられてきた。
大岩剛監督のチームは1stレグで2-0のリードを奪っており、アウェイゴールを1点取ればペルセポリスには4点が必要になると分かっていた。だがホームチームが先にゴールを決めたとすれば、この雰囲気の中で鹿島が持ちこたえられるとは考えにくかった。
しかし、一直線にゴールへ向かおうとするペルセポリスがFWのゴドウィン・メンシャとアリ・アリプールを裏へ走らせるなど序盤には多少危うくなる場面もあったとはいえ、安定したディフェンスラインと、ACL史上初めて3回の優勝を経験する選手となったGKクォン・スンテがチームを落ち着かせた。後半以降は、初の大陸王者のトロフィーを逃すことには絶対にならないと感じられた。
最終的にそれを可能としたのは監督と選手たちの力だった。中立のファンの心を捉えるようなスペクタクルとは程遠かったとしても、鹿島はまさにやるべき試合をした。
イランのファンは試合後も印象的だった。敗れ去った英雄たちを称えるため大勢が観客席に残り、歴史的瞬間を目撃するため日本から遠路はるばる旅してきた200人ほどのサポーターとともに鹿島の選手たちが勝利を喜ぶことも許していた。
私にとっても選手たちにとっても決して楽な旅ではなかったが、アザディ・スタジアムでのあの夜の記憶は決して色褪せることはないだろう。
(取材・文:ショーン・キャロル【イラン】)
【了】