J最速の男にも負けない走力
試合がクライマックスに近づくにつれ、大南にも疲労が溜まっていた。しかし、足は止まらない。経験値は誰よりも低いが、だからこそ誰よりも粘り強く戦い、できることを遂行した。
後半終盤、FC東京は永井謙佑をピッチに送り出した。短い時間で図抜けたスピードで駆けるシーンがあったが、隣には常に大南がいた。加速する永井に怖気づくことなく、むしろ大南もギアを上げている。疲れはあったはずだが、無失点で終えるために力を振り絞ったと言う。
「すごく足が速い選手なのはわかっていましたし、絶対に縦に来るだろうなと。ここで守り切ったらゼロで終われると思っていたし、とにかく抑えたかった。(大井)健太郎くんと(高橋)祥平くんに助けられていたので、あそこは自分が助ける番だと思ってやりました」
身長184cmと空中戦の勝負が得意で、足下の技術が光るタイプではないがボール捌きも苦にしない。J最速の選手に食らいつくスピードも証明した。大南のポテンシャルを知る上で、多彩な顔が並ぶFC東京はこれ以上ない相手だった。
もっとも、ポテンシャルだけで試合に出られるほどプロの世界は甘くない。その意味では、溢れんばかりのその可能性に、大南自身がようやく追いついたと言える。“素材感”は誰の目にも明らか。センターバックを始めたのは高校からということもあってか、新しいことをダイレクトに吸収していった。先輩たちのアドバイスに耳を傾け、試合に出られなくても腐らぬよう気持ちを保った。全体でのトレーニングの後にはコーチたちとキックの練習に明け暮れた。ちなみに、それは今も続けているという。
ひたむきに成長する大南の姿に、ベテランも目を細める。
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