出来る限り引っ張る。用意周到なシナリオ?
もちろん、これだけ長引いたのは、純粋な実力だけでは判断できない“価値”がボルトにはあったからだ。言わずもがなの“商業的価値”である。Aリーグは、ボルト到着以来、約8週間、今までにないくらいの世界的な注目を集めた。
日本でのその主たる関心は「本田圭佑」ではあったが、世界の興味は確実に「ウサイン・ボルト」に向けられていた。
確かに −“世界最速の男”が「プロサッカー選手になりたい」という子供のころからの夢を叶えるべくチャレンジする− その絵は、普通のメディア的にはおいしいネタなのだろう。
メディアに留まらず、プロモーションなどPR全般の観点からでも、今回のことがCCMというAリーグでも最小規模の経営のクラブ、そして、Aリーグ自体にもたらした広告効果はとてつもなく大きい。
実際、ボルト到着直後のCCMの練習会場は彼目当ての人が押し寄せ、ただの練習試合が全国にテレビ中継された。2試合目の練習試合でボルトが2得点をするや、世界中のスポーツメディアでそのニュースが取り上げられて、自ら売り込まずとも世界的な露出を得られたのだから、クラブもAリーグもそれはハッピーに違いない。
もし、CCMが話題作りだけを意図して彼を「獲得」したのであれば、既にその広告戦略でそれなりの実入りは得ていて、充分にその目的を果たした。実際的な金銭的ベネフィット以外にも、「あのボルトがトライアルしていたクラブね」ということで、CCMの名は世界中の多くの人々の記憶に刻まれた。
そう考えると、契約をするかどうかを出来るだけ引っ張って、注目を集められるだけ集めてから、最後は円満に分かれるという用意周到なシナリオの下での出来レースなのではと疑いたくもなる。
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