“悪魔の左足”は日本代表でも輝くか
そうなればまず、オーソドックスなサイドバックとして組織の機能性を損ねることなく、プレーすることが山中には求められる。ただ、マリノスではアンカー脇に立つセントラルMF的サイドバックの役割と、通常のアウトサイドを根城にするサイドバックを状況に応じて使い分けられていることこそが、彼の最大の強みとしてピッチ上で効果を発揮しているのも事実だ。
シーズン開幕当初は中に絞ることにこだわるあまり、そこを狙われて背後のスペースを使われることも多かったが、徐々に試合の中でポジションを調整して内と外を柔軟に使って、攻撃に厚みを加えていけるようになった。
もともとは純粋な左利きの左サイドバックとして、積極的なオーバーラップでタッチライン際を駆け上がってクロスを上げる形を得意としていたところに、柔軟性が加わったことでプレーの幅が大きく広がった。
前線のスペースを突くタイミング、走り込む方向、クロスのバリエーション、前方の選手が使うスペースを維持するサポート時のポジショニングなどは、所属クラブと日本代表でサイドバックに求められる仕事が変わっても、縦関係でコンビを組むアタッカーが変わっても応用できるものだ。守備でのデュエルなどもしっかりこなしつつ、2列目のアタッカーやボランチとのコンビネーションでどんどん前に出ていく回数を増やせれば、日本の攻撃の迫力はより増していく。
攻撃面の特徴を発揮することは、森保監督も「スペシャルなもの」として山中の「左利きを生かしてのプレー、クロスや攻撃に絡むプレー」を挙げた通り、日本代表でも必ず求められるはず。A代表初招集に至った理由を裏づける今季の充実ぶりはデータにも表れている。ゴール数は昨季の「1」から「4」へ、アシスト数も「5」から「8」に大きく伸びた。試合中のアクション回数も1試合平均で昨季が「64.22回」だったのに対し、今季は「86.96回」と増え、プレーに絡む時間も伸びた。
さらに特筆すべきは枠内シュート数が昨季の1試合平均「0.76本」から、今季は「1.3本」に増えている点。やはりゴール数の増加にともなって、自らゴールを狙う場面が増えている。強烈な弾道のミドルシュートだけでなく、直接フリーキックという武器もある。アシストもできてゴールも奪える、まさに“悪魔の左足”だ。
もちろん以前から指摘されていた守備面の課題はまだ散見され、クロスの精度などにも課題はある。確かに森保監督が指摘する通り、プレーの波もある。だが、超攻撃的サイドバックとしての山中の能力は、他のライバルたちにない魅力。ベネズエラ戦とキルギス戦で自らの存在価値をアピールできれば、手薄な左サイドバックで日本代表定着も見えてくる。
(取材・文:舩木渉、データ提供:Wyscout)
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