「モチベーションとは自分で作りあげるもの」
総監督を務める大倉智代表取締役とともに選手たちに強調してきたのは、現状に対して慣れない、あるいは現状に対して勘違いしないこと。たとえばJクラブとの練習試合を行えば、対戦相手に旧知の選手がプレーしているケースが実は少なくない。
彼らとの会話を介して自らが身を置いている状況を確認できるし、いまはインターネット上でもJクラブ、特にJ2の中位以下やJ3のクラブが置かれた現状を把握することもできる。いわきFCのほうが待遇面や環境面で上回っているかもしれないと感じれば、人間である以上は心の片隅にある程度の満足感が生まれ、将来に対するモチベーションにも少なからず影響を与えかねない。
「大倉さんとよく話しているのは、モチベーションとは自分で作りあげるものだということ。そのなかでどのような選手にここへ来てほしいのかと言えば、いわきFCの理念を理解したうえで、子どものころから描いてきた『プロサッカー選手になりたい』という、ぎらついた夢をもち続ける選手となりますよね。それがモチベーションです。何のためにここに来たのか、将来的にはどこを目指したいのか、プロになりたいんだよね、とならないといけない。別にこのクラブを踏み台にしてもいいんです。ただ、そういうモチベーションをもっていないと、続けられないのかなと思っています」
毎年オフにデータを提示しながら話し合いの場をもち、その結果としていわきFCからの退団を告げてきた理由を田村監督はこう説明する。退団した選手は社員としてDIBで引き続き勤務することができるが、大半が現役続行を希望し、新天地を求めていわき市を離れていく。
ならば、新たに加入する選手たちには、どのような条件を求めているのか。実は選手選考会「コンバイン」をクリアして加入した選手は、2016年1月に実施された第1回を最後に出ていない。ほぼ全員をスカウトする際に掲げる独自の視点を、大倉代表取締役は真っ白なキャンバスを例に出しながら説明してくれたことがある。
「Jリーグ経験者を獲得しよう、という意欲があまりないんですよね。90分間を通してノンストップで倒れることなく走り続ける、魂の息吹くフットボールを目指していこうと考えたときに、25、26歳の選手を取ってもどうしても難しい部分がある。その意味では、若くて真っ白な子を見つけて、どのように育てていくかが一番大事ですよね。ウチの選手たちはJ3ではなく、J2で普通にプレーできます。Jクラブのスカウトが見落としているかもしれない、という選手が大勢いるということです」