安部が継承する“カシマイズム”
そうした姿勢には、安部なりのプレーへの考え方、理想像が深く関わっている。身長171cm体重65kg、パッと見ただけでは小柄なドリブラーと捉えられがちだが、本質にはファイター的な気質が垣間見える。
「一生懸命と言ったらいいかわからないですけど、ああいうプレーでチームのみんなが反応を起こすか、うまくいかない時にそういうのを起こせる選手が絶対に試合の中では必要だと思うので、そういう選手になりたいですし、目指している。チームがうまくいかない時にきっかけになるプレーだったり、声だったり、表情だったり、そういうのをこのチームに与えられたらなと思います」
19歳にしてプレーでチームに影響を与えられる選手として、1つのスタイルを見つけつつある安部だが、もちろん若さゆえの部分も残している。予測不能なアジアの戦いは「違うスポーツみたい」と実感しているところだ。
それでも「試合の雰囲気を掴むのに時間かかったりする選手もいるんですけど、やっぱりそういうのは僕は鹿島アントラーズというチームで経験させてもらっているので、誰よりも早く雰囲気を感じ取って、チームに伝えたい」と、鹿島で戦ったACLの経験やJリーグで培ったものを代表にも還元していく覚悟でいる。
「僕はずっと考え方を変えるというのはしてきていなくて、変えるというより積み上げていくものだと思っています。今まで小学生の時にサッカーを始めた頃から、身につけたものを変える必要はないし、時間が経つにつれてそれを大きなものにしていければいいかなと思います」
安部の言葉の端々からは芯の強さを感じる。目の前の試合でも、長期的な視点でも、ブレることなく経験を積み上げて糧にしていく。そして一瞬一瞬に自分の全てをぶつける。常に勝つために何をすべきか考えながら戦う“カシマイズム”はすでに骨の髄までしみわたっている。その継承者たりえる日本の10番が、タイ戦で見せたプレーはまさに別格だった。
(取材・文:舩木渉【インドネシア】)
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