逆襲のきっかけはハーフタイムに
ただ、ここから日本が底力を発揮する。「過去の例から言うと、そうやってベタ引きされて、それを崩すために躍起になって、カウンターを食らって負けるというのはよくあること」と影山雅永監督は語ったが、選手たち自身がその教訓を生かし、自発的にコミュニケーションを取って流れを引き戻そうとした。
「相手がどういう攻撃をしてきているのか、我々のどういうものを崩そうとしてきているのかというのを冷静に捉えて、そして相手の並びもちょっと予想できていたところがあるので、もう一度冷静に、前半の開始のように崩しつつ、相手の立ち位置を理解しながらボールを運ぼうじゃないかということを、僕が(ロッカールームに)戻った時には選手たちもすでに言っていたので、その通りだと。まだそんなに勝てないんだから、もう一度冷静にやろうじゃないかと」
影山監督が前半を終えてロッカールームに下がった時には、選手たちですでに顔を上げて、後半でいかに勝ち筋を見つけるかを模索していた。そしてミスしてしまった選手にも精神的な強さを取り戻せるように働きかけていた。伊藤は言う。
「2点目で追いつかれた時、瀬古歩夢のPKを取られてしまったシーンで、あいつがすごく下を向いていたので、普段トレーニング中は厳しく言っているんですけど、1つになって戦う意味も込めて、みんなであいつの顔を上げさせる声かけができた」
菅原もハーフタイムでのコミュニケーションが後半のエンジン再点火につながったと感じている。「全体的に試合を通してみれば僕たちがボールを持っていましたし、相手にはイエローカードが出ていましたし、うまいこと誘えばレッドカードも出ると思っていたので、そういうところでうまくハーフタイムを通して共有できた。ピッチにいる選手も、監督やコーチからもいろいろな意見もありましたし、そういうのが活発に出ているのが後半のプレーになった」と振り返る。
前半は最終ラインとGKとの連係に不安定さが見られるなど、いい流れもありながら、いくつかアンバランスな部分が見受けられた。それらを修正するための会話ができたことで、誰1人下を向くことなく後半に入ることができた。「焦って攻めたら相手の思う壺」(伊藤)と、前半以上にボールを失わないことを意識しながら、パス回しで徐々に相手の体力を削っていく。その中で北朝鮮の選手には足をつる者も出てきた。
そして試合の流れを決定づけるゴールは、65分に生まれる。久保がペナルティエリア手前からゴール右上隅に鮮やかな直接フリーキックを叩き込んだ。「毎回ゴールを決めたら嬉しい」と語る背番号9の表情は、いつもの険しさがとれた印象があった。