“飛び道具”も手に入れたドルトムント
59分にマキシミリアン・フィリップとの交代で出場すると、投入直後の62分に結果を出す。サンチョの右からの折り返しを、ゴール前に入り込んで、すんなり合わせて同点弾。相変わらず決定力の高さを見せつけた。
もちろんアルカセルの投入で、何もかもが好転したわけではない。70分にラファエウ・ゲレイロがボールを奪われて危ない場面を招いたように、守備は不安定なまま。停滞は吹き飛んだが、チームのパフォーマンスが安定したわけではなく、ジェットコースターのようなシーソーゲームが始まったのだ。
71分、ダイアゴナルのロングボールでシンプルに右から崩されて、フィリップ・マックスにゴールを許すと、再び80分にアルカセルが同点弾。獅子奮迅の活躍を見せるスペイン人FW——。
そして84分には、途中出場のマリオ・ゲッツェが技ありのゴール。ハキミのゴール前へのスルーパスを左足で軽くトラップして、GKをかわして右足でシュート。その3分後にセットプレーから三度同点に追い付かれるが、ドルトムントはこのまま終わらなかった。後半のアディショナルタイム、直接FKのチャンス。キッカーはアルカセル。鋭い弾道は、そのままゴールの右隅に吸い込まれていった。土壇場でドルトムントは勝ち越し、4-3のスコアで逆転勝利。アルカセルは“置き土産”を残して、スペイン代表の活動に合流した。
試合後にファブレ監督は「アルカセルはとても良い移籍だった。だが私は誰も特別扱いをしたくない。我々は1つのチームだ」と振り返った。だが、アウクスブルク戦でのパフォーマンスを見れば、アルカセルが特別な存在であることに疑いはない。
それはスペイン人FWがドルトムントに所属する他のどの選手よりも優れている、ということではない。単にアルカセル以外にセンターFWのポジションをこなす“点取り屋”がいない、ということだ。さらにアルカセルは、直接FKでゴールを狙えることも証明した。プレースキッカーが不在だったドルトムント。ようやく“飛び道具”も手に入れた。
このように貴重な存在のアルカセル。スペイン代表での活動で負傷して帰ってこないことを、祈るばかりである。
(取材・文:本田千尋【ドルトムント】)
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